テレワークの定着で端末へのニーズが大きく変化
コロナ禍でテレワークシフトが進み、業務に使う端末へのニーズも大きく変わりつつある。当初は、モバイルPCがその中心だったが、直近の1年ではその動向が変化。処理能力の高いワークステーションへのニーズが拡大しているのだ。IDCの直近の調査でもワークステーションの出荷台数予測は、2022年度第1~3四半期の出荷台数予測が前年同期と比べ増加している(※1)。
※1 出典:IDC Workstation Tracker_ForecastPivot_2021Q4_Dell
なぜこのような現象が起きているのか。それには大きく2つの要因が考えられる。
1つは在宅勤務が定着した結果、急遽調達されたモバイルPCに対する不満が顕在化してきたことだ。オフィスから持ち運ぶことを考えてモバイルPCを選択したものの、ほとんど在宅で仕事を行うのであれば、実際には持ち歩く必要はない。そのため、より自由度が高く、処理性能の高い端末へのニーズが高くなったのだ。エンジニアやクリエイターといった専門職であれば、グラフィックスへの要求も高くなるが、モバイルPCではその対応にも限界がある。その結果、オフィスで使っていたワークステーションと同等のものを、在宅でも使いたいという要望が増えてきたのだろう。
もう1つの要因としては、専門職以外の職種でも、より高性能な端末が必要になったことが挙げられる。例えば営業職では直接顧客訪問できる機会が減り、リモートで商談するケースが増えた。そのためWeb会議を安定的に行える環境が求められている。また動画コンテンツを自分たちで制作し、それを営業活動に生かそうという動きも加速している。
つまり「テレワーク=モバイルPC」という固定観念が、テレワークシフトが始まって1年が経過したころから、急速に崩れはじめているわけだ。そしてパフォーマンスへの要求が高まった結果、ワークステーションへの注目度が高くなったのである。
この傾向はこれからも続くだろう。そこで本稿では、ワークステーションの活用例や飛躍的な進化を遂げるワークステーション最新動向について紹介したい。
17期連続出荷台数No.1を誇るワークステーションの活用例は
近年、どんな形でワークステーションが活用されるようになったのか。これについて「エンジニアやクリエイターだけでなく、幅広い形で裾野が広がっています」と話すのは、デル・テクノロジーズの中森 顕紀氏だ。ちなみにデル・テクノロジーズはワークステーション市場のリーディングカンパニー。そのグローバル出荷台数が17期連続No.1(※2)という実績を持つ。もちろん日本でもユーザー企業は数多い。
※2 出典:IDC Workstation Tracker Final Historical Pivot 2021Q4
「例えば、ソリッドレイ研究所様では、顧客向けVRソリューションの構成要素として、当社のワークステーションを活用されています。また麻生建築&デザイン専門学校様では、学生の学習用として1人1台のモバイルワークステーション環境を提供。3次元CADによるモデリングや解析、VRなどの多彩な用途で、学生の作品づくりをサポートされています。ほかにもコベルコ建機様では、建設現場の労働力不足を解消するDXコンセプト『K-DIVE CONCEPT』の実現に向けた研究開発において、建機の遠隔操作コックピットにワークステーションを活用。真夏の建設現場でフル稼働させ続けても障害が発生しない環境を実現されました」(中森氏)。
ほかにも、冒頭で触れたように事務職や営業職といった専門職以外でも、これまで使用していたPCの代わりとして導入されることも増えているという。
なぜ、これだけ多くの企業が同社の製品を採用するのか。その採用理由として多いのが、性能、堅牢性、コストパフォーマンス、これに加えてラインアップの幅が極めて広い点も大きいという。
この図を見れば分かるように、モバイル型からコンパクト型、タワー型、ラック型など様々なフォームファクターが揃っており、処理能力によっても3000シリーズ、5000シリーズ、7000シリーズに分けられている。
「そのためそれぞれの利用シーンに最適な端末を選択可能です。さらに2022年3~4月にかけて、コンパクト型、タワー型、モバイル型で計8機種の新製品を追加。選択の幅はさらに広がっています」(中森氏)
15インチの能力を14インチに凝縮したモバイルモデル
ここからは最新モデルとともに、進化するワークステーションの機能を俯瞰していきたい。まず取り上げたいのがモバイルモデルである「Dell Precision 5470」。Dell Precisionブランドとしては10年以上ぶりとなる、14インチモデル(ディスプレイサイズが14インチ)だ。
「これは日本のお客様から多くいただいていたご要望に、お応えする形で開発された世界最小クラスの薄型軽量モデルです。しかしパフォーマンスにも妥協せず、15インチモデルと同等のパワーを発揮します」と中森氏は胸を張る。
厚さは19mm未満となっており、最小重量は1.48kg。「これがワークステーションなのか」と思ってしまうくらいに、コンパクトでスタイリッシュだ。しかも14インチといわれても、それより小さく感じられる。その要因となっているのは、極めて狭いベゼルサイズである。本体の大きさに対し91%を液晶ディスプレイが占めているため、13インチと同程度のサイズ感になっているのだ。
「筐体が小さくなると排熱が難しくなりますが、このモデルは当社独自の『Dual Opposite Outlet(二重対向ファン)』をさらに進化させた排熱システムを採用し、排熱効率を高めています」(中森氏)
また、Windows 11に対応し、最新の第12世代インテルCPUを搭載することで大幅にパフォーマンスをアップ。数多くのISV認証を受けており、Dell Optimizer for Precisionにも対応している。
筐体が大型化しよりパワフルになったタワーモデル
もう1機種取り上げたいのは、「Dell Precision 3660 Tower」だ。これはタワー型エントリーモデルだった「Dell Precision 3650 Tower」の後継モデルだが、旧モデルとは大きく異なる点がある。それは筐体が大型化し、よりバリエーションに富んだオプションが選択できるようになった点だ。
「まず基本的なスペックとしては、こちらもWindows 11に対応し、最新の第12世代インテルCPUの搭載によって、大幅にパフォーマンスがアップしています」と中森氏は説明する。メモリは4400MHz/DDR5を最大128GB搭載でき、最大16TB NVMe SSDと12TB SATA HDDをサポートしている。「グラフィックスもNVIDIAのハイエンドGPUであるRTX A6000を搭載可能です。筐体を大型化したからこそ、エントリーモデルでもこれだけパワフルなスペックを実現できたのです」。
筐体の大型化は発熱処理でも有利に働く。排熱容量がアップするからだ。これに加えてDell Precision 3660 Towerでは、水冷クーラーといったハイスペックなオプションの選択も可能だ。
「水冷オプションを選択することで、冷却ファンの稼働を抑えることができ、騒音が低減します。これは在宅でワークステーションを使うユーザーにとって、魅力的な選択肢になるはずです。マンションなどでは騒音レベルに対する要求が、オフィスよりも厳しくなるケースが少なくありません」(中森氏)
さらに従来モデルと同じように、背面のダストフィルターやコードガードも提供。これらを装着することで筐体内に入り込む埃を最小化でき、コード類の掃除も行いやすくなる。またペットが筐体裏に入り込み、コネクターが外れてしまうという事故も防止できるだろう。
「もちろん従来製品と同様に、グローバルで多くのISVからの認証を取得しています。そのため使いたいソフトウエアを安心して使えるマシンに仕上がっています。またこれまでも提供してきた最適化ツールDell Optimizer for Precisionにも対応しており、個人の使い方をAIが学習し、各種設定を最適化できるようになっています」(中森氏)
IT部門が新たな選択肢として、このようなワークステーションを提供すれば、従業員の業務効率や生産性が高まるだけではなく、行える業務の幅も広がるはずだ。従業員満足度を高め、業務に貢献できるIT部門としての存在感を高めるためにも、もはやワークステーションは有効な選択肢の1つになったといえるだろう。
日経BP社の許可により、2022年4月19日~ 2022年7月19日掲載 の 日経 xTECH Active Special を再構成したものです。
https://active.nikkeibp.co.jp/atcl/sp/b/22/03/24/00674/