「死亡交通事故ゼロ」を目指すSUBARU Lab SUBARUの挑戦を支える、「AI開発を止めないストレージ」とは

「死亡交通事故ゼロ」を実現するため、技術開発を進めるSUBARU。従来の画像認識から進化するため、AI技術の導入を考える同社の前に立ちはだかった壁とは。

最先端の技術で死亡交通事故ゼロへ

自動車メーカーSUBARUの歴史は、1917年に創業した航空機メーカー、中島飛行機にまでさかのぼる。戦後、富士産業と改称し、航空機の開発に携わってきた技術者たちが中心となって、スクーターや船舶エンジンなどさまざまな製品を製造していった。中でも、1958年に発売された「スバル・360」は一般市民が求めていた身近なクルマとして人気を博した。

航空機製造で培ってきた経験やノウハウを生かし、同社はクルマの安全技術の開発に注力しており、さまざまな技術を生み出している。2008年には、ステレオカメラを活用した安全機能を提供する「アイサイト」を開発し、プリクラッシュブレーキ機能や全車速追従機能付きクルーズコントロール機能などを搭載した新車両を発売した。

SUBARUのアイサイト(提供:SUBARU)

SUBARUの金井 崇氏

「SUBARUは5つの安全性能を追求し、2030年に『SUBARU車に乗車中の死亡事故、SUBARU車との衝突による歩行者/自転車などの死亡事故ゼロ』を目指して車両の開発に努めています。アイサイトは“予防安全”、“ぶつからないクルマ”の実現が目標です。長年にわたって培ってきた画像認識技術がベースとなっています」と、SUBARUの金井 崇氏(技術本部 ADAS開発部 主査 兼 SUBARU Lab 副所長)は述べる。

「ただし」と、金井氏は続ける。

「現行のアイサイトに、ディープラーニングに代表されるAI(人工知能)技術は、まだ搭載されていません。そこでSUBARUは2020年12月に『SUBARU Lab』を設立し、次世代のアイサイトにAIの判断能力を融合させることで、安全性をさらに向上させる研究開発を進めています」(金井氏)

SUBARU Labは、AI開発に必要な人材のスムーズかつ的確な採用と、IT関連企業との連携がしやすい環境を整えるため、渋谷にオフィスを構えた。金井氏は「他業種出身のメンバーに対する、自動車や安全技術などの教育にも注力し、新しい風を受けてイノベーションを興していきたい」としている。

開発者に負担をかけないストレージ

アイサイトの画像解析システムの開発には当然、画像や動画など大量のデータが必要だ。SUBARUでは、エンジニアが自ら自動車を運転して撮影した動画を技術開発に用いている。そのため、まずは膨大なデータを格納する場所が必要になる。動画を快適に再生できる仕組みも必要だ。開発者は幾つもの動画データを何度も再生しながら、開発を進めている。このため大量の動画データを素早く参照できる仕組みが必要になる。

また、AI技術の開発となれば、データの保管と参照の頻度はさらに増大する。従来の画像解析システム開発は大容量の動画ファイルを基にして開発していたが、AI技術開発においては、動画から画像を切り出して、アノテーションデータ(教師データ)とセットで解析を繰り返すといった進め方になる。つまり、一つ一つの画像ファイルの容量は小さいけれど膨大な数のファイルが存在することになる。

このようにデータの要件が変化したAI開発の現場では、従来のストレージやデータ基盤がマッチしなくなっていた。

SUBARUの最上恒義氏(技術本部 ADAS開発部 担当)は「大容量の、膨大な数のファイルを格納し、『必要なときに素早く呼び出せる』という基本的な性能と信頼性に加えて、開発者に負担をかけないような『シンプルなディレクトリ構造を維持したい』という思いがありました。将来的にはもっとデータが増えるでしょうから『高い拡張性』も必要でした。それでいて『設置場所を圧迫しないコンパクトさ』も、私たちにとっては重要な要素でした」と振り返る。

SUBARUの最上 恒義氏

そこでSUBARUが注目したのが「Dell PowerScale」(以下、PowerScale)だ。拡張性と容量密度に優れ、高いパフォーマンスと安定性を誇るスケールアウトNAS(Network Attached Storage)だ。1つのボリュームに数百PB(ペタバイト)クラスの大量のファイルを格納できるなどシンプルな運用が可能で、懸念していた機能的な制限はほとんどないことが決め手となったという。最上氏は「従来以上のパフォーマンスにも満足している」と語る。

SUBARUは、複数の拠点に、それぞれAI開発用、既存システム用、アーカイブ用としてPowerScaleシリーズを配置。拠点をまたいだクラスタ/階層構造を構築した。また、各拠点を100Gbpsのネットワークでつなぎ、高速にデータを連携させられる環境を整えた。

「撮影した動画(走行データ)は、どの拠点からでもPowerScaleのクラスタに格納でき、開発にすぐ利用できるようにしました。もちろんデータ管理の最適化は図りますが、細かなルールはできるだけ設けず、どんどんデータをためて、すぐさま自由に使えるようにしたかったのです」(金井氏)

SUBARU Labのシステム概略図(提供:デル・テクノロジーズ)

作り込みも複雑な運用も不要で高いTCOを実現

PowerScaleを中心に構成した新しいデータ基盤は、ネットワークを介したデータアクセスでも従来以上の性能を発揮しているという。容易に容量を増設できるようになったことも「PowerScaleの魅力だ」としている。

また同時期にSUBARUは、アーカイブ用途の環境に高速なオールフラッシュタイプのPowerScaleを導入している。自動車開発ではプログラムテストなどで過去のデータを参照する機会が多く、アーカイブされたデータであっても後から頻繁に利用することがある。そのため、アーカイブに高速でアクセスできる環境が必要だ。そこでSUBARUはADAS向けに開発されたアーカイブモデルを組み合わせて「階層化」構成にした。これによってアーカイブ全体の性能を底上げしつつ、アーカイブデータへの高速アクセスを実現した。アーカイブのコスト効率も上がり、金井氏は「オールフラッシュタイプを中心とした構成にしたことで、高いパフォーマンスと費用対効果を発揮している」と高く評価する。

「複数の拠点間で、高いパフォーマンスで容易にデータを利用できるようになったことは大きな成果です。試験走行した車両のデータをコピーする必要もなく、自分の拠点に戻ればすぐ利用できる状態になります。その結果、従来の数百倍のペースでファイルが増えています。そんな膨大なデータでも安心して扱えるようになったことも価値といえるでしょう。安定化のための細かな作り込みを必要とせず、PowerScale自体の性能と機能で容易にカバーできます。インフラについて思い悩むことなく運用コストを維持したまま、このパワフルなストレージ基盤を実現できているため、TCO(総保有コスト)は極めて高いと考えています」(金井氏)

最上氏は、ストレージの運用面で「Superna Eyeglass Search & Recover」に注目している。上述したように、開発者には研究においてストレージを自由に活用してほしいと考えているものの、管理側としては、ストレージ容量を最適化するためにファイルの“要不要”は把握しておきたい。こうした悩みを抱えていた。そこでSuperna Eyeglass Search & Recoverを利用し、例えば5年以上参照されていないファイルは削除を促すなど、「運用面から容量を最適化できる」と最上氏は考えた。

「PoC(概念実証)を実施したところ、そのスピードに驚きました。大量のファイルがあっても、そのファイルの特徴やアクセス頻度などを素早く調べることができました。テストでは10分ほどで約150万ファイルを解析していました。たったそれだけの時間で、ファイルの状況をグラフィカルに表現してくれるのです。コマンドと表計算ソフトウェアで膨大なファイルの状態を管理するのはもはや不可能ですから、大容量データ活用の課題が1つ解決できそうだと考えています」(最上氏)

アイサイト開発現場では急激にデータが増え続けており、そのスピードはさらに加速する見込みだ。SUBARU LabはPowerScaleによって、加速するデータ増加に負けない拡張性を確保できた。将来的にシステムが老朽化したとき、膨大なデータをどのように移行するかが懸案として残されているが「PowerScaleのアーキテクチャでカバーできると期待している」とのことだ。

「AIの学習ジョブをできるだけ速く回すため、コンテナや『Kubernetes』も積極的に活用しています。AIの開発スピードを高めるためには学習プログラム、コンピューティング、ストレージ、ネットワークなどシステム全体を最適化することが重要です。恐らく近い将来、もっとスピーディーな技術や効率の良い手法が登場するでしょう。そのとき、デル・テクノロジーズには、新しいチューニングの方法やソリューションの提案などでSUBARUのAI開発をインフラ面で支えてほしいと考えています。単なるモノ売りで終わらない、強力なパートナーシップを期待しています」(金井氏)

インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサー・ファミリー搭載 Dell VxRailがもたらすメリット

デル・テクノロジーズとVMwareが共同で設計し、あらゆるコンポーネントの最適化と検証を経て出荷されるDell VxRailは、DXを実現する次世代ITインフラに新たなユーザ体験をもたらします。

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この記事は @IT(https://www.itmedia.co.jp/news/)に2024年2月に掲載されたコンテンツを転載したものです。
https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2401/09/news002.html

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