データ・マネジメントの新戦略 Vol.4 複雑化する企業システムに柔軟に対応 新時代ストレージ「SDS」の最新版を徹底解剖

ベアメタルのデータベースサーバーや、仮想化環境で動くアプリケーション、さらにはクラウドネイティブなコンテナなど、現在の企業システムは多様化している。こうしたシステムのデータ資産をいかにシンプルかつ柔軟に守り抜くか。こうした観点から大きな注目を集めているのが、デル・テクノロジーズの提供するSDS(Software Defined Storage)製品「Dell PowerFlex」だ。2022年にはその性能と機能がさらに強化された。ここでは同製品の特徴を振り返った上で、最新アップデートの注目ポイントを見ていきたい。

多様なアプリへの最適な対応を可能にするSDS

デル・テクノロジーズ株式会社
ストレージプラットフォームソリューションズ
アドバイザリーシステムズエンジニア
市川 基夫氏

企業にとって、最も重要な経営資産の1つとなったデータ。しかしこの資産を適切な形で長期的に守り抜くことは、決して簡単ではない。

これまでの一般的なストレージシステムは、ハードウエアの保守期限が切れたタイミングでリプレースされ、そこに格納されていたデータを新しいストレージに「移行」しなければならないのが一般的だった。そのため定期的に移行作業が発生し、そのたびにシステムを停止させる必要があった。システム構成がシンプルなうちはこのような状況でも大きな問題は発生しなかったが、最近の企業システムは非常に複雑化している。その結果、各アプリケーションにデータを供給するストレージも乱立し、定期的なデータ移行が度々発生し、その負担やリスクも増えている。

ストレージシステムが乱立すれば、データを格納するストレージの利用率も悪化する。例えば、アプリケーションを仮想化環境からコンテナ環境へと段階的に移行する際、仮想化環境のストレージには十分な空きがあるにもかかわらず、コンテナ環境のパーシステントボリューム(コンテナ上のデータを永続化するための領域)がひっ迫してしまう、といったケースになりかねない。

こうした問題を解決できる切り札として、近年大きな注目を集めているのがSDS(Software Defined Storage)である。これは、ストレージをハードウエアのまま提供するのではなく、ソフトウエアによってストレージの集合体を仮想的な「ストレージプール」とし、そこから各サーバー/アプリケーションに対して必要な量のボリュームを最適なパフォーマンスで提供する、というものだ。

これによって多様なニーズに1つのストレージシステムで対応でき、システム構成がシンプルになる上、ボリュームのムダを解消できる。またハードウエアの状態変化をソフトウエアで隠蔽できるため、ハードウエア更改のたびにデータ移行が発生する、といった状況を回避可能になる。

このSDSの領域で注目されている製品の1つが「Dell PowerFlex」(以下、PowerFlex)だ。これは内蔵ディスクを搭載する複数のサーバーを統合してプール化し、ブロックストレージとしてアプリケーションに提供できる製品だ。

「PowerFlexは、イスラエルに本社を持つScaleIO社の製品を前身としており、2019年まではScaleIOという名称で販売されていました。その登場から数えると10年以上の歴史を持つ製品であり、2013年にScaleIO社をEMC社が買収し、さらにEMC社とデル社が統合することで、デル・テクノロジーズの製品となりました。その後、2019年にはVxFlexにリブランド。さらにその翌年にPowerFlexへと名称を変更し、現在に至っています」とデル・テクノロジーズの市川 基夫氏は話す。

性能と拡張性、耐障害性、柔軟性を備えたPowerFlex

この製品には大きく4つの特徴がある。1つ目の特徴は、圧倒的なパフォーマンスと拡張性だ。

「PowerFlexのソフトウエアは、ボリュームを提供するストレージ側のSDSと、クライアント(アプリケーションが動くサーバーや仮想化基盤など)側のSDC(Storage Data Client)とが、セットとなって動くようになっています。SDCがSDSと直接“会話”することで、効率的なデータアクセスが可能になっているのです。さらに、SDCとSDSはフルメッシュ型で接続され、SDCはどのノードに必要なデータが存在するのか把握しているので、直接目的ノードのSDSと通信を行います。そのためスケールアウトした場合でも、パフォーマンスを阻害するホットスポットが存在せず、性能の劣化が発生しないのです」(市川氏)(図1)

クライアント側でSDC、ストレージ側でSDSが動き、これらが直接対話することで、効率的なデータアクセスを実現している。またマルチノードに対してフルメッシュ型で接続されるため、ホットスポットによる性能劣化も発生しない

そのパフォーマンスと拡張性の高さは、実際の計測結果からも明らかだ。例えば「4K Read」の計測を行ったケースでは、16ノードで440万IOPS、128ノードでは3160万IOPSとなっている。ここで注目したいのは、ノード数に比例してリニアに性能が向上している点だ。なお3160万IOPSというのは、同社のハイエンドストレージであるPowerMaxの最大性能に匹敵する値である。

2つ目の特徴は、高速なデータ保護・耐障害性を実現していること。PowerFlexのソフトウエアはセルフヒーリング・セルフリバランスの機能を備えており、ドライブやノードに障害が発生した場合には、それ以外のすべてのノードを使用して自動的にリビルドを行うようになっているという。

「一般的なストレージシステムでは、障害が発生したドライブ自体を再構成するため、リビルドを実行するのに数時間~数日かかることも珍しくありません。これに対してPowerFlexでは、障害ドライブやノード上にあったデータを、ほかの全てのノードおよびドライブを使ってデータの再構成を行います。そのため分単位で完了し、ノード数が多いほど短時間で実行できるのです。その結果、99.9999%という、極めて高い可用性を実現しています」と市川氏は説明する。

3つ目の特徴は、伸縮自在であること。ノードやディスクの追加時および削除時やノードのメンテナンス時など、クラスタ内の全ノードにデータが均等分散されるようリソースの自動バランシングを行うようになっている。

「各ノードへのアクセス状況やデータ配置は、常に最適なパフォーマンスと最適なデータ配置になるようにバランシングが行われます。新規のノードを追加した場合や、古くなったノードをクラスタから取り外した場合も、この自動バランシングを実行。そのためデータ移行を全く行うことなく、ストレージシステム全体のハードウエア更改が可能になります」(市川氏)

そして最後に4つ目の特徴が、柔軟なインフラ構成だ。仮想化基盤で一般的に用いられている3Tier構成(物理サーバー/SAN/共有ストレージの構成)はもちろんのこと、コンピュートノードとストレージが融合したHCI型、さらにはこれらを混在させることもできるという。

「例えばOracle DBを使っているシステムであれば、CPUライセンスを抑制するためにこのサーバーだけベアメタルにし、仮想マシンやコンテナが載る統合インフラ環境のHCI型構成のストレージ領域を利用する、といった柔軟な構成を取ることも可能です」と市川氏は話す。

これらの特徴は、デル・テクノロジーズ内部でIT環境のモダナイズに取り組んでいる「デル・デジタル」にも高く評価され、すでにデル・デジタルが保有するストレージ全体の60%がPowerFlexだという。今後もデル・テクノロジーズ自身の成長に合わせPowerFlexの導入が増えていく予定だ。まさに「デル・テクノロジーズのビジネスを支えるストレージ」だと言えるだろう。

2022年のPowerFlexで注目したい4つのアップデート

こうした特徴を備えるPowerFlexだが、2022年には、さらに様々な強化・拡張が図られている。ここからは、その中から特に注目したい4つのポイントについて紹介していきたい。

1つ目のポイントは「ファイルサービスの追加」だ。前述のようにPowerFlexは、ブロックストレージを提供するSDSとして発展してきたが、今回新たにファイルストレージの提供もサポートし、NASとしても使えるようになった。

「PowerFlexのファイルサービスは、ファイルサーバーとしてだけではなく、データベースや仮想化環境などのトランザクショナルワークロード環境や、最近ではコンテナのパーシステントボリュームとしての利用に適しています。これをPowerFlexに統合できれば、高性能でボリューム配置の最適化が可能なNASを実現でき、TCOの削減が可能になります」と市川氏は説明する。

その具体的な実装方法は、専用のNASノードとしてDell PowerEdgeを使用し、その上でSDCとコンテナ化されたNASサーバーを動かすというもの。このNASサーバーはNFS/SMB/FTP/SFTPをサポートし、最大256TBのファイルシステムを、最大4096個まで提供できるという(図2)。

NASノードとなるDell PowerEdge上でSDCとコンテナ化されたNASサーバーを動かし、アプリケーションにファイルストレージを提供する

2つ目のポイントは「NVMe over TCPのサポート」だ。これを可能にしたのが、PowerFlexのストレージ側に配置される「SDT」と呼ばれるソフトウエアコントローラーである。

NVMeはもともと、サーバー内のディスクにPCIe接続で直接接続するものとして登場したが、最近では様々なファブリック・インターコネクトで利用されるようになり、ストレージ業界ではNVMe over TCPが浸透している。これをサポートすることで、ハイパーバイザーやOSが標準的に備えているNVMe over TCPドライバーで、直接PowerFlexにアクセスできるようになるという。

「これはクライアント側にSDCを入れたくない、あるいは何らかの事情で入れられない、といったお客様への代替手段になるものです。もちろんSDCを使った環境とも共存可能です。SDCを使った場合に比べてクライアント側の構成はシンプルになるため、クライアントノードの導入や拡張作業が大幅に簡素化されます」と市川氏は述べる(図3)。

ストレージ側でSDTと呼ばれるコントローラーを実装することで、標準的なNVMe over TCPによるアクセスが可能になる

3つ目のポイントは「ユニファイドマネジメント(統合管理)」の実現だ。PowerFlexには「ソフトウエアのみ」「PowerFlex Custom Node(Ready Node)」「PowerFlexアプライアンス」「PowerFlexラック」という、大きく4つの提供モデルが存在する。以前はこれらの管理コンポーネントとして、それぞれ別個の管理ツールが提供されていた。

それが今回、すべての提供モデルに対し、統合された「PowerFlex Manager(Unified Manager)」が用意されることになった。つまり、複数のモデルを使用する場合でも、管理を統合できるようになったわけだ。一貫した運用エクスペリエンスを提供し、運用管理の簡素化を実現する。

そして4つ目のポイントが「マルチクラウドへの対応」である。デル・テクノロジーズが推進する「Project Alpine(※)」の一環として、PowerFlexのソフトウエアをAWSなどのハイパースケーラー上で実行できるようになった。なおProject Alpineの詳細については、次回に説明する予定だ。

ここであげた4つのポイントのほかにも、「Kubernetes環境での非同期レプリケーション機能実装」やデータの無停止移行を可能にする「PowerPath Migration Enablerによるマイグレーション強化」「セキュリティ強化」などが図られている。

これらのアップデートによって強化されたPowerFlexは、企業システムの多様なワークロードに、より柔軟に対応できるストレージになった。PowerFlexの適用可能範囲が拡大されたことで、データの長期的な保護と活用も、これまで以上に行いやすくなるだろう。

※Project Alpine:デル・テクノロジーズが提供するストレージ・ソフトウエアとパブリッククラウドを組み合わせ、データがどこにあるのかに関係なく一貫性のあるユーザー体験を提供するもの

日経BP社の許可により、日経 xTECH Special を再構成したものです。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/22/delltechnologies1028/

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