デジタルが可能にした新感覚の体験型施設の秘密 わずか1カ月で3万人が来館 図鑑の世界を体験できる新施設の舞台裏

図鑑の世界を“めぐる”体験型施設が誕生

デジタル化の流れはますます加速し、社会を大きく変えようとしている。感動や興奮、楽しさをもたらすエンターテインメントの世界も大きく様変わりしつつある。デジタルで表現の幅が広がり、新しい体験が可能になったからだ。

その可能性に挑み、新境地を切り開いた組織がある。佐々木ホールディングス、小学館、エイド・ディーシーシー(以下、AID-DCC)、ドリル、電通、サニーサイドアップ、朝日新聞社の7社が設立した「ずかんミュージアム有限責任事業組合」(以下、ずかんミュージアム)である。体験型デジタルミュージアム「ZUKAN MUSEUM GINZA powered by小学館の図鑑NEO」(以下、ZUKAN MUSEUM GINZA)を2021年7月16日、東急プラザ銀座6階(東京都中央区)に開業した。

ZUKAN MUSEUM GINZAは図鑑の世界を立体的なデジタルコンテンツでリアルに表現した新感覚の体験型施設。書籍の図鑑はページを“めくる”ことで知識を深めていくが、ZUKAN MUSEUM GINZAは多様な生き物が共存する空間を“めぐる”ことで、その生態や反応を体験しながら学ぶことができる。空間を“めぐる”中で、驚きや感動をもたらす様々な仕掛けも用意されている。新感覚の体験型施設は人気を呼び、コロナ禍の中にあって、開業からわずか1カ月で来館者は3万人を超えた。

この世界観を実現する上で、デジタルの表現を支えるインフラは重要な役割を担っている。最適なインフラがなければ、自然環境やその中で生きる生き物たちをリアルに表現することは難しい。開業後は世界観を損なわない安定稼働も求められる。この難題をどう克服したのか。その成功の舞台裏に迫ってみたい。

「体験して知る」新しい学びを実現する仕組みとは

株式会社エイド・ディーシーシー
シニアプロデューサー・ディレクター
北井 貴之氏

ヘキサゴンジャパン株式会社
プロジェクション・エンジニア
畑 正太氏

株式会社エイド・ディーシーシー
システムエンジニア
中井 博章氏

ZUKAN MUSEUM GINZAに一歩足を踏み入れると、来館者はその世界観に圧倒される。そこは最先端のグラフィックデザインやプロジェクションマッピングで表現されたデジタルの自然空間だ。

館内は生き物の生育環境ごとに「アントビューゾーン」「ウォーターフォールゾーン」「ディープフォレストゾーン」「アンダーウォーターゾーン」「ワイルドフィールドゾーン」の5つのゾーンに分かれている。館内を“めぐる”ことで、「小学館の図鑑NEOシリーズ」からピックアップされた生き物たちに出会い、その息吹を感じることができる。

全体のコンセプト設計やシステム全体の設計はAID-DCCが、コンテンツの演出にかかわる事前の投影プランニングやシミュレーション、機器の選定、投影の調整作業などは主にヘキサゴンジャパンが担当した。AID-DCCの北井 貴之氏はZUKAN MUSEUM GINZAの魅力を次のように語る。「館内をめぐれば発見の連続で、自然と知的好奇心が掻き立てられます。図鑑を『読んで知る』だけでなく、地球の自然を体感し『体験して知る』新しい学びの提供を目指しました」。

館内は映像だけでなく、音響・照明にもこだわり、生き物と自然を表現した。「図鑑の世界に四方から包み込まれるような没入感を味わうことができます」とヘキサゴンジャパンの畑 正太氏は話す。

各ゾーンには24時間を24分に凝縮した時間軸が設定されている。「次第に変化していく朝、昼、夜という時間の経過を体験できます。時間の経過とともに環境が変化し、生き物の行動も変わっていきます」とAID-DCCの中井 博章氏は説明する。

生き物のリアルな行動を体験できるユニークな仕掛けもある。それがナビゲーターアイテム「記録の石」だ。センサーが内蔵されており、館内で出現する生き物に近づくと、本物さながらの反応を見せる。急に近づいたり、近づきすぎると怖がって逃げてしまう。「自分が人であることを実感し、生き物の能動的な動きや絶妙の距離感を体験として学んでほしい」と北井氏は話す。「記録ボタン」を押すと、生き物の名前や行動の理由なども教えてくれる。最後に記録の石を所定の場所に置くことで、記録された生き物が飛び出すエンディングを見られるという。

こうした表現や仕掛けを支えるシステムのインフラの1つに採用したのが、デル・テクノロジーズのタワー型ワークステーション「Dell Precision 7920」である。館内のスタートエリアと、蟻の目線で探索するアントビューゾーンにそれぞれ1台ずつ導入した。

緻密な空間演出を支える性能・信頼性を評価

館内で繰り広げられる図鑑の世界は、映像・音響・照明を正確に同期させインタラクティブな仕組みを実現する非常に緻密なもの。プロジェクションマッピングの映像だけでも、1つのゾーンでプロジェクターを5台、6台と組み合わせる。その同期が崩れると世界観が成り立たない。

全体を制御するシステムには高性能であること、そして長時間の稼働でも安定して稼働する信頼性が求められる。この要件を満たすインフラとして採用したのが、Dell Precision 7920 ワークステーションというわけだ。

当初はコンテンツ制御用のメディアサーバーの導入も考えたが、コストが非常に高額になり、利用できるソフトウエアも限られる。「Dell Precision 7920 ワークステーションならコストを抑え、使えるソフトウエアの選択肢も広がる。スムーズな動きを表現するためには、1台のワークステーションでグラフィックボードが最低2枚は必要ですが、Dell Precision 7920 ワークステーションは拡張性が高く、性能は申し分ありません」と畑氏は述べる。現状は余力のあるスペックを確保できているという。

連続稼働に耐えうる信頼性の高さも実感している。開業までに映像・音響・照明が同期する仕組みを何カ月もかけて調整していったが、Dell Precision 7920 ワークステーションがボトルネックになるような事態は発生せず、作業に支障を来たすことはなかった。「開業後もハードウエアに起因するトラブルは一切なく、安定稼働しています」と中井氏は評価する。

運用をシンプル化できる点にも大きなメリットを感じているという。インタラクティブな体験を提供するためには、記録の石のセンサーデータを受信・制御するための専用カードも必要になる。「Dell Precision 7920 ワークステーションは拡張スロットが多彩です。グラフィックボードも信号受信用のカードも外付けにする必要がなく、筐体内に収容できる。作業も筐体を開け、スロットに差すだけで非常にシンプルです」(畑氏)。

顧客に寄り添う真摯なサポート対応を実感

開業期日までにシステムを完成させることは絶対条件である。しかし、コロナ禍により、世界的な半導体枯渇問題が発生。グラフィックボードに搭載するGPUの調達が困難になり、納期に間に合わない可能性が出てきた。

そこでDell Precision 7920 ワークステーション本体とグラフィックボードを分けて発注する“奇策”を決行した。これに対し、デル・テクノロジーズは柔軟な対応を見せ、遅れが予想されるグラフィックボードの同等品を検証用機器として提供した。

こうして先に納品された本番環境のDell Precision 7920 ワークステーションでシステム側の設定処理などを進め、その後提供された検証用のグラフィックボードを活用して、映像・音響・照明が同期する緻密な動きを現場で検証する作業に取り組んだ。「検証用のグラフィックボードを提供してもらわなければ、満足に検証作業は行えず、期日までの完成は困難だったでしょう」と北井氏は振り返る。

危惧していたグラフィックボードは開業前までに無事納品された。「同等品なので、検証用のグラフィックボードを外し、正規のものに取り換えるだけ。最終チェックを行い、正規の形で開業を迎えることができました」と畑氏は語る。

今後は出現する生き物や周囲の自然環境を変えるなど、図鑑の世界は適宜アップデートしていく計画だ。時間の経過だけでなく、天候の変化を体験できることを考えているという。「今後もDell Precision 7920 ワークステーションの有効活用を図り、図鑑の世界をアップデートし、よりリアルな体験を提供していきたい」と北井氏は前を向く。

また、今後のインフラの増強や更改はDell Precisionシリーズを軸に検討していくという。ほかのゾーンに導入した他社製の映像配信用PCの中には、既にトラブルが発生したものもあるが、Dell Precision 7920 ワークステーションは開業後、トラブルは一切ないからだ。「その安定性・信頼性は高く評価しています」と北井氏は続ける。

ZUKAN MUSEUM GINZAは今後もデジタルによる表現の可能性に挑戦し、リアルな体験の中から学びを得ていく「アカデミック・エンターテインメント」の普及と発展を目指す考えだ。

日経BP社の許可により、2021年12月3日~ 2022年3月3日掲載 の 日経 xTECH Active Special を再構成したものです。
https://active.nikkeibp.co.jp/atcl/sp/b/21/10/25/00587/

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