中堅企業にこそDXが有効な理由とは?

DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の動きが加速している。これまでDXは「一部の大企業が中心」というイメージもあったが、コロナ禍によって中堅企業にもそのすそ野が広がりつつあるのだ。しかし、いざDXを進めるには、専門人員や予算の確保の困難さ、ノウハウの不足といった観点から戸惑う企業も少なくない。そこでデル・テクノロジーズとDNTI(DN Technology & Innovation)では中堅企業のDXを支援すべく「定額制コンサルティング」の提供を開始した。状況に合わせた形でDX推進を支援するサブスクリプション型のサービスを提供しているのが大きな特徴だ。中堅企業のDXの実態とこれを加速する手段などについて両社のキーパーソンに話を聞いた。
(左)DN Technology & Innovation株式会社 代表取締役社長 西村 大輔 氏 (右)デル・テクノロジーズ株式会社 広域営業統括本部フィールドセールス本部 中部営業部 兼 西日本営業部 部長 木村 佳博 氏

全社的なDXに取り組む51.7%の中堅企業が業績を回復

一 DXの必要性が最初に提唱されてから、既に10年以上が経過しました。日本の中堅企業における進展状況はいかがでしょうか。

木村氏 デル・テクノロジーズでは毎年、中堅企業のIT投資動向調査を行っており、今年で5年目になるのですが、中堅企業ではこの1~2年で急速にDXが進みつつあります。ここで興味深いのは、既に3.5%の企業が全社横断的なDXによる事業変革に取り組んでおり、そのうち51.7%の企業が、昨年12月から今年2月にかけて業績が回復傾向にあることです。

DN Technology & Innovation株式会社 代表取締役社長 西村 大輔 氏

西村氏 これはDXへの取り組みを進めていくことが、企業の業績に大きな好影響を与えることを明確に示しています。DXの相談を受けることの多い当社から見ても、重要なデータだと感じています。

木村氏 私も今回の調査の最大の収穫は、このデータだと思います。中堅企業ではこれまで、パソコンやサーバーのリプレースなど、「部分的な最適化」を目的としたIT投資が多く、それなりに大きな効果を挙げてきました。しかし最近ではそれだけでは不十分だという認識が広がっています。例えば、昨年は圏外だった「データの可視化」への取り組みが、今回では21.7%と上位に浮上しています。

しかしその一方で、実際に最近の中堅企業のプロジェクトにかかわった経験からも、中堅企業ではまだまだデータがアナログのままの企業が多いのが現状です。

一 今お話に出たように、DXについて「次の一歩」に踏み出せない企業も少なくありません。何が中堅企業のハードルとなっているのでしょうか。

デル・テクノロジーズ株式会社 広域営業統括本部フィールドセールス本部 中部営業部 兼 西日本営業部 部長 木村 佳博 氏

木村氏 1つは予算確保が難しいということです。今回の調査でも7割強の企業が、DXの予算確保のためにコスト削減の必要性を感じています。実際に中堅企業のお客様を支援していると、既存業務の最適化と事業変革への投資バランスが求められていることが分かります。

西村氏 もう1つは人材不足です。私自身、中堅企業の顧問業をやっていた経験から、圧倒的に人材が足りていないことを実感しています。そもそも中堅企業は人の採用や育成に、多大な苦労をしています。このような状況の中、デジタルの波やコロナ禍が押し寄せてきて、DXに手をつけざるを得なくなった。しかしそのための人材はいない。これが多くの企業の実情ではないかと思います。

木村氏 多くの中堅企業の業務プロセスは、紙などのアナログ文化で成り立っていることも少なくありません。これまではそれでもうまくいっていたので、変わらなくても大きな問題はなかったわけです。しかしこの1~2年で、変革しなければならないという議論が高まっています。変革しなければ事業継続すらできないという差し迫った危機感が、経営層の方々にも広がっています。

西村氏 営業1つするにしても、以前は顧客企業の社長や事業部長といったキーパーソンに直接お会いして、説明することができました。しかし、コロナ禍ではそうはいかなくなっている。そのためにWeb会議などを活用するケースが中堅企業でも増えていますが、そもそも経営状況が見えるデータがなく、現況を把握できないという問題がしばしば起こっているようです。

DXの最大のハードルは「目利き」の不在

西村氏 中堅企業のDXへのハードルとしてもう1つ重要な要因があります。それは中堅企業でも手軽に使えるSaaSが増えていて、どれを選んだらいいのか分からなくなっていることです。また、どの業務から手をつけるべきなのか、優先順位を決めることも難しい。このような目利きを行う人材は、なかなか短期間では育ちません。実は大手企業でも社内の人材では間に合わず、コンサルティング会社などの第三者に依頼するケースも多いのです。

木村氏 その一方で、中堅企業は経営層と現場の距離が近く、いったん動き始めれば高いモチベーションで取り組む人々が多いという特徴もあります。実際に今回の調査結果でも、DXをIT担当者がリードしている企業が約43%、事業部がリードしている企業が約30%、合わせて7割以上の企業が外部に委託するのではなく、DXを内部で進めています。

西村氏 つまり最初の一歩を踏み出すための目利きの不在こそが、中堅企業のDX推進における最初にして最大のハードルなのです。もちろん“目利き”と一言でいっても、カバーすべき領域はAIやデータサイエンス、ブロックチェーン、クラウドなど多岐にわたります。それでは各分野の人材を1人ずつ集めればいいのかというと、これにも問題があります。例えばDXのためにUIデザイナーを1人採用して、その後10年、20年と継続雇用できるのか。大企業であれば数多くのプロジェクトに参画できますが、中堅企業ではそうもいきません。

一 こうした中小企業の悩みを解決するために開始したのが定額制のコンサルティングだということですね。これはどのような経緯で実現されたものなのですか。

西村氏 今回はデル・テクノロジーズさんから定額制のコンサルティングはどうかという提案をいただきました。私自身が顧問業を定額制で受けていた経験から、これはいいアイデアだと感じました。実際に中堅企業のDXに関する相談をいただくとき、「何から手をつけるべきなのか」すら分からないというケースが多いです。ここで全体を俯瞰できる外部の人間が、週に1回でもアドバイスする機会があれば、ずいぶんと進み方が変わると思っていました。

木村氏 「トップからの指示でDXを推進しなければならなくなったが、どうすればいいかわからない」といった相談を受けるケースも数年前から増えています。実際にDXに着手するには、その前段で社内の状況を確認し、データを収集・分析して、どこに向けて進むべきなのかを決める必要があります。しかしほとんどの中堅企業には、このようなノウハウを社内に持っておらず、大手のコンサルティング会社に相談するとかなり高額な見積もりが出てくることになります。しかし多くの企業ではその余力はない。そこで中堅企業へのコンサルティング経験を持つDNTIさんと一緒に、この問題を解決できないかと考えたわけです。

DNTIの強み×デルの知見で生まれたコンサルティング

西村氏 当社にはビジネスコンサルティングや事業変革の専門家、AI技術者やデータサイエンティストといったデジタル人材、クラウドアーキテクチャに精通した人材がおり、社外の人々と連携したエコシステムもつくっています。このような人材のスキルを必要なタイミングで必要なだけ利用できれば、中堅企業は各分野の専門家を1人ずつ雇用する必要はありません。これなら中堅企業にとってのDXへのハードルは大幅に下がります。もちろんこのアイデアには、デル・テクノロジーズの経験も反映されています。

木村氏 当社には中堅企業のお客様が多く、そのお付き合いの中で得た様々な声をサービスメニューに反映させています。また技術や開発を支援するため、包括的なアウトソースサービスをメニュー化し、中堅企業向けに定額制で提供してきた経験もあります。これはDXコンサルティングにも応用できるのではないかと考えました。

一 デル・テクノロジーズでは既に「中堅企業DXアクセラレーションプログラム」も行っていますが、今回提供を開始した定額制コンサルティングは、どのような位置付けにありますか。

木村氏 DXアクセラレーションプログラムは昨年からスタートしていましたが、これは人材育成を重視したプログラムであり、お客様の気付きの支援や、技術を学ぶための場の提供、Pythonをベースにしたプログラミング講座などを進めてきました。その結果、このプログラムに参加された企業の中で、実際に自分たちのDXを実践したいという要望が増えてきました。しかし中堅企業は大企業とは異なり、いきなり大きな予算を確保してプロジェクトをスタートすることができません。まずは目の前の変革からスタートし、小さな成功体験を積み重ねていくことが現実的なアプローチです。ここで今回提供を開始したコンサルティングメニューが生きてきます。

西村氏 今回発表したメニューは、「コンサル相談」「現状分析・企画」「データ収集・分析/示唆」「プロトタイプ開発」「サービス化」「継続的な相談窓口」で構成されています。この中で最初に行うのは「コンサル相談」です(図)。

最初のコンサル相談が無料、ほかのメニューも月定額のサブスクリプション型となっており、中堅企業でも手軽に利用できるようになっている

ここで社長や幹部の方とお会いして、お客様が置かれている状況や戦略的に将来どういう会社になりたいのか、中長期的に何を目指すのかなどをヒアリングしていくことで、今何に困っているのか、コロナ禍の影響をどう受けているのか、この2年間どのような取り組みを行ってきたのかなどを把握していきます。医者の仕事に例えれば、最初の問診のようなものです。これに関しては、オンラインも含めた月に数回の相談を、無料でご提供します。

ここである程度課題を絞り込んだ上で、「現状分析・企画」に入ります。ここでは課題に関するファクトとなる情報を明確化し、それをどう収集するかについて考えていきます。次に「データ収集・分析/示唆」で、データ収集・分析の仕組みを設計し、「プロトタイプ開発」でそれを実施につくり上げ、操作感はどうか、ユーザーが問題なく使いこなせるのか、などを検証します。さらに「サービス化」では、つくり上げたものをサービスとして利用できるよう、よりブラッシュアップしていきます。そして「継続的な相談窓口」によって、その後の段階的な拡大や継続的なアップデートを支援していきます。

木村氏 DXは一度取り組んでそれが一段落したら終わり、というものではありません。小さな成果を積み重ねながら、継続していくことが重要です。そのため継続的な相談窓口を設け、せっかく上がったDXのモチベーションが下がらないように配慮しています。

中堅企業のDXは日本の国力を底上げするカギ

一 中堅企業でDXが進むことには、どのような意義があるとお考えですか。

木村氏 日本の会社のうち、大企業が占める割合はわずか0.3%で、残りの99.7%が中堅企業です。ここでDXが進み大きなムーブメントになっていけば、日本全体が変わっていきます。大げさないい方かもしれませんが、中堅企業のDXこそが日本の国力を底上げする、大きな原動力になるのではないでしょうか。

西村氏 私もそう考えています。しかも大企業に比べて組織が密で、経営者と現場との距離が近いため、いったんDXが始まってしまえば一気に進んでいく可能性があります。ただしそのためには、単に技術を変える、ビジネスを変えるといった側面だけではなく、企業文化自体も変わっていかなければなりません。デジタルで文化が変わり、それによってビジネスが変化していくという、大きなサイクルをつくり上げる必要があるのです。今回の定額制コンサルティングが、その1つのきっかけとして役立てばいいと思っています。

木村氏 実際にコロナ禍でテレワークが広がった結果、仕事のやり方は大きく変化してきました。これは企業文化を変革する大きなチャンスだといえます。DXに参画した人が次のリーダーとなり、継続的に取り組みを進めていくことで、DX人材はどんどん増えていくはずです。またこのような人材が横の連携をつくることで、企業の枠を超えたコミュニティができていくことにも期待しています。

西村氏 そのようなコミュニティができれば、さらに面白い展開になりますね。

木村氏 今後はコミュニティづくりの支援も、DNTIさんと連携しながら取り組んでいきたいと考えています。

日経BP社の許可により、2021年7月13日~ 2021年8月16日掲載 の 日経 xTECH Special を再構成したものです。

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