デジタル変革を前進させるIT部門を考える 調査結果から読み解く課題と挑戦

日経クロステック Active リサーチ Specialが2022年5~7月にかけて実施した「ITインフラに関する実態調査」。日本企業が「真のデジタル変革」を推進していく上で、ITインフラ調達に関してどのように考えているのかが、この調査結果で浮き彫りになった。ここではその中から5つの調査データを取り上げ、その背景や意味を深掘りするとともに、近未来のITインフラ調達で重視されるポイントを俯瞰していきたい。

増大傾向にあるIT予算、戦略的なIT投資がより重要に

日本企業がDXを加速させるに伴い、ITインフラ調達・運用に対する考え方も変化しつつある。これを明確にし、将来に向けた指針を得るために実施されたのが「ITインフラに関する実態調査」(日経クロステック Active リサーチ Specialが2022年5~7月)である。

回答数403件のうち、約7割の企業がDX推進を担当する部門があると回答。さらにITインフラの選定基準で重視する要件として、「全社的なDX・IT戦略に基づく要件」「事業部門から出てくるITを取り巻く環境変化の要件」を挙げる回答が半数近くを占めた。「社内で安定的に業務アプリケーションを動かすことが最優先」という意識から、「ビジネスに貢献できるITインフラにしていくべき」という意識へと、大きくシフトしていることが伺えた。

それではIT投資で解決したい課題として、何の優先順位が高いのか。これに対する回答を集計したものが図1のグラフだ。

デル・テクノロジーズ株式会社
APEX プロダクト マーケティング
フィールドマーケティングコンサルタント
野﨑 絵里佳氏

「調査の前は『データに基づくビジネス予測』や『新しい製品・サービスの創出』が上位に来るのではないかと予想していましたが、今回の結果では『業務プロセスの標準化・効率化』や『セキュリティ強化』、『働き方改革、リモートワーク環境の向上』がトップ3となりました。別の設問では、『過去3年間のIT予算・投資が増加』したという回答が4割もあるのに対し、『減少した』がわずか6%だということも分かりました。日本企業の多くは今、DXの次のステップに進むために、社内の足元を固めている段階にあるのではないでしょうか」と推測するのは、デル・テクノロジーズの野﨑 絵里佳氏だ。

このような状況の中、企業競争力はIT投資をどれだけ戦略的に行えるかによって、大きく左右されることになるだろう。従来と同じアプローチを踏襲するのではなく、DX以降を見据えたアプローチへと切り替えていく必要があるからだ。「中でも重要になるのがマルチクラウド化を意識した調達方法の実現です。オンプレミスのITインフラ調達も、パブリッククラウドと同じようにサービス型で行いたい、というニーズが高くなっています」と野﨑氏は話す。

このようなニーズに対応するためデル・テクノロジーズが提供しているのが、サービス型でシステムインフラを提供する「APEX」だ。これはパブリッククラウドと同様の俊敏性やシンプルな運用管理を、オンプレミスのインフラで実現するサービス。その価値は大きく「Simplicity(シンプルさ)」「Agility(俊敏性)」「Control(管理性)」の3つにあるという。

パブリッククラウドのメリットをオンプレミスに取り入れることによって、ITの俊敏性と管理性を高めるとともに、人的負荷の軽減も可能にする

まず「Simplicity」に関しては「APEX Console」というセルフサービスポータルによって、必要なリソースを直感的かつスピーディにオーダー可能。リソース利用に必要な運用管理業務はすべてデル・テクノロジーズに任すことができ、より戦略的な人的リソースの最適配置を可能にしている。

「Agility」に関しては、デル・テクノロジーズ自身のサプライチェーン変革により、最短1カ月でシステム利用を開始可能。その後の拡張や縮小も、ビジネスニーズに合わせて迅速に行える。

そして「Control」に関しては、デル・テクノロジーズの管理のもとで、必要な基準を満たしたコンプライアンスとセキュリティを実現。システム利用状況の最適化についても、デル・テクノロジーズのカスタマーサクセスマネージャーが適宜提案を行い、IT投資の最適化やITの見える化を支援する。

短期間で変わっていくITインフラ要件、人員不足も大きな課題

調査結果において、次に注目したいのが「ITインフラに求められる要件は今後どのくらいのサイクルで変化していくと思いますか?」という設問への回答だ。下のグラフが示すように「1年未満」「1~3年」が4割を占めた。

図3 ITインフラに求められる要件は今後どのくらいのサイクルで変化していくと思いますか?(ひとつだけ)

従来であれば、ITインフラの更改サイクルは5~6年が一般的だった。これは税制上の償却期間などから導き出された数字であり、実際にはそれよりも長期間使い続けられるITインフラも少なくない。投資効率を考慮すれば、いったん投資を行ったITインフラはできるだけ長期間使い続けたい、というのが自然な考え方だからだ。

しかし最近では、AIやIoTといったデジタル技術の急速な変化や、DXに伴うITリソース利用のダイナミックな動きが生じている。このような背景からITインフラへの要件が、短期間で変化するようになったと推測できる。

従来のように、最初に長期的な視野でキャパシティプランニングを行い、システム構築の段階で大きな投資を行うというアプローチでは、市場や技術の劇的な変化に対応することは難しい。想定される最大リソースを見据えたキャパシティを確保した場合には、過剰投資となってしまう。逆に、状況に応じてリソースを追加する場合は、増設に伴う作業が後で必要になり、これも大きな負担になる。

こうした問題もAPEXであれば解決可能だという。

「APEXでのインフラ調達の方法は、大きく『基本容量』と『オンデマンド容量』の2つで構成されており、必要なリソース量が予想よりも多くなった場合でも『オンデマンド容量』で対応できるからです。使用料金も、基本容量に基づくサブスクリプション契約で支払う基本料金と、オンデマンド容量で追加された分を支払う形となります。月額料金としてお支払いいただくため、初期投資は不要です。また事業やサービスの撤退によって必要リソースが少なくなった場合には、基本容量契約をダウンさせることも可能です。さらに、増設や返却に伴う作業もすべてデル・テクノロジーズが担当いたしますので、お客様側の作業は最小限に抑えられます」(野﨑氏)

基本容量とオンデマンド容量の2階層の構成となっており、容量が不足したときにはすぐにオンデマンド容量で対応できる。使用料金は基本容量とオンデマンド容量を合わせた料金を、月額で支払うことになる

つまりAPEXであれば、導入前に綿密なキャパシティプラニングを行うことなく、その時点で必要な基本容量ですぐに利用開始できるわけだ。

もちろんITインフラの調達・運用のコストで問題になるのは、初期投資の大きさや必要となるリソース量の変化への対応だけではない。ほかにも様々な課題が存在していることが、図5に示した調査結果で明らかになっている。

この中で特に注目したいのが「運用要因の確保」と「運用実務の管理・統制にかかる人件費」「定常運用にかかる人件費」。つまり「人に関わる課題」が、上位4位のうち3つを占めている点だ。

実はこれには2つの背景がある。1つはよく知られているように、少子高齢化による人材不足や、DX推進に伴う人材の再配置が進んでいることである。ただでさえIT技術者の確保が難しい状況にある上、その技術者の一部がIT部門以外へと流出するケースが少なくない。もう1つはIT部門の責任範囲が拡大していること。これは別の設問になるが、「過去3年間でIT部門の責任範囲が拡大した」という回答が、4割を超えているのである。

人員が減少傾向にある中で、いかにしてより広くなった責任範囲をカバーするのか。IT部門はこのような、厳しい課題に直面している。この課題を乗り越えていくには、IT部門自身も変革を成し遂げなければならない。

「ここで重要になるのが、IT部門が行うべきこととそうでないことを、明確にすることです。これまでは、社内システムを安定的に運用することで社内の生産性を高めることがIT部門の役割でしたが、これからは既存商品・サービスの高付加価値化やリアルタイム経営の実現といった持続的イノベーションや、ビジネスモデルそのものの変革といった破壊的イノベーションも担わなければなりません。このように拡大する役割を担っていくには、戦略的な『やらない選択』が必要なのです」(野﨑氏)

このような「やらない選択」の1つに挙げられるのが、ITインフラのライフサイクル管理だと野﨑氏は指摘する。調達からデプロイ、監視、運用、最適化といった一連の業務をアウトソースできれば、その分だけ戦略的な業務に集中できるからだ。そしてこれに関しても、APEXは有効だという。

「APEXではAPEXライフサイクルサービスを標準で提供しており、ITインフラ運用・管理に関する幅広い定常業務やバージョンアップなどの業務を、デル・テクノロジーズに任せることができます。お客様とのコンタクトポイントは、当社のカスタマーサクセスマネージャーが担当し、お客様の状況に合わせたアドバイスなどを実施。お客様は自社の人的リソースを、よりビジネスバリューのある領域へとシフトできるようになります」

調達・運用管理方法のニーズは多様化、環境に配慮したIT投資は不可避

それでは、ビジネス競争力を高めるためのITインフラの調達・運用管理について、日本企業のIT関係者は実際にどう考えているのか。その結果が次の図6である。

「自社で調達・自社で運用管理」「ベンダー経由で調達・自社で運用管理」「ベンダー経由で調達・ベンダーに運用管理を任せる」「パブリッククラウドで調達・自社で運用管理」「パブリッククラウドで調達・サービスプロバイダーに運用管理を任せる」という、5つの選択肢に対して、ほぼ均等に回答が分かれている。つまり調達・運用管理を自社で行うか否かに関して、現時点では決定的な多数派は存在しないことが分かる。

ただし、調達先をパブリッククラウドとしている回答は3割弱にとどまっており、クラウドファーストといわれつつ、多くの企業がオンプレミスでITインフラを調達したいという意向を持っている点には注目したい。また「わからない」が2割を超えており、どのような形でITインフラを調達・運用すべきなのか、まだ判断しきれていない企業も少なくない。

「運用管理だけを見ても、お客様によって状況は様々だということが分かります。このような多様性に対応するため、APEXでは最近、新たなオプションを追加しました。それが『Customer-Managed』です」(野﨑氏)

それまでのAPEXでは、運用管理の各種業務をデル・テクノロジーズに任せるのが前提となっていた。これに対して「Customer-Managed」では、監視・運用・最適化の業務については、顧客または顧客のパートナーが行うことになる。

「これを活用することで、これまでIT部門が培ってきた運用のベストプラクティスを生かすことや、パートナー企業の付加価値を最大限に生かした運用サービスなどが可能になります。このような幅広い選択肢を用意することも、APEXが提供すべきバリューだと考えています」

最後にもう1つ、興味深い調査結果を提示したい。それは「脱炭素経営」や「サプライチェーン排出量」に関する意識を問うた設問への回答である(図7)。

「具体的な取り組みを行っている」「今後の取り組みとして検討している」「話題として出たことがある」は合わせて7割を超えており、環境問題に対する意識の高さが伺える。

「その一方で、日本のSDGs達成度は163カ国中19位となっており、3年連続で後退しています。また6つの目標で『深刻な課題がある』とされており、2022年にはその中に『つくる責任つかう責任』が含まれ、特に『電子機器の廃棄量』の多さが指摘されるようになっています」(野﨑氏)

こうした環境問題への対応でも、APEXの活用は大きな意味を持つという。「製品やサプライチェーンの改善はもちろんですが、APEXは循環経済を実現するものとしてビジネスモデルからデザインされています。さらに、デル・テクノロジーズでは、サステナブル・イノベーションの目標として『2030 moonshot goal』『2050ネットゼロ ゴール』を掲げ、2030年までに『お客様にご購入いただいた製品と同量の製品を再利用または再生利用する』『梱包材は100%再生材料または再生可能材料にする』こと、2050年までに『スコープ1、2、3において温室効果ガス排出量を実質ゼロにする』ことを約束しています」と野﨑氏は話す。

今後、ITインフラをどのように調達・運用していくべきか――。もちろんそれは、各企業や組織の戦略や方針によって変わってくるだろう。しかしクラウドや従来型のオンプレミスだけでなく、APEXのような調達・運用形態を選択肢の1つとして意識しておくことは、より適切な戦略の立案とその実現において、大きな意味を持つのではないだろうか。

日経BP社の許可により、2022年10月28日~ 2022年11月24日掲載 の 日経 xTECH Special を再構成したものです。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/22/delltechnologies1028_03/

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