生成AIの登場によって、AIをビジネスに活用しようという機運がかつてなく高まっている。業務での導入はもちろん、工場のセンシングデータをはじめとした多種多様な情報を扱える「マルチモーダルAI」の利用などが広がっていくだろう。
しかし、肝心の「AIをどう活用すればいいのか」を学ぶ機会は少ない。ChatGPTのような“既製品”ならまだしも、企業独自のデータをAIに与えて業務に適用するケースなどには戦略的な取り組みが必要だ。
そこで、本記事はWebセミナー「『生成AI』活用を加速する”データマネジメント”正攻法」(2024年1月26日開催)を通して、生成AIを活用する方法を提示する。
「日本企業は、AIを活用してDXを加速してほしい」と同セミナーを主催したデル・テクノロジーズの諸原裕二氏は開幕の言葉を述べた。
ここまで進化するとは想像外――阪大教授が語る「AIの可能性」
「21年に生成AIがにわかに登場しました。十数年前から研究されていますが、ここまで性能が向上するとは研究者も想像していませんでした」――基調講演でこう語るのは、約30年間にわたってAIを研究している大阪大学の鷲尾隆教授だ。
デジタル化やDXが進むにつれて、シミュレーションなどの「サイバー世界における情報処理」によって現実世界の課題を解決する動きが活発になっている。そのためには実世界の情報を取り込む「センシング技術」と、情報処理した結果を実世界に反映させる「制御技術」、それらを扱う「人間の能力」が重要だ。これらの技術の要としてAIが注目されていると鷲尾教授は話す。
センシング技術×AIの事例の一つに、鷲尾教授らが研究している計測データのノイズを低減する手法がある。ナノサイズの細胞の質量を特殊な装置で計測すると、計測した信号に不要なデータが混ざってしまう。ノイズがない「正解のデータ」を用意できないためフィルタリングも難しい。そこで、同じ対象を2回計測してAIに通すことで、ノイズの背景にある正しい信号だけを取り出せるようにした。
AIで人間の能力を開発した事例もある。化学プラントの運転マニュアルと操作シミュレーターにAIを取り入れて、熟練の作業員が長い年月をかけて経験してきたことを数日で学べるようにした。普段発生しない事故やエラーのデータが不足していても、AIによる推論で最適な操作手順を提示できるようになり、実証実験では手動だけの操作に比べて運転を約40%効率化できた。
生成AIをどう使うのか ビジネス活用の展望
さらに鷲尾教授は「注目すべきキーテクノロジー」として生成AIを挙げて、ChatGPTを使えば航空機の揚力を考慮したフライトシミュレーターのプログラムコードも生成できると驚きをもって紹介する。
生成AIへの指示文(プロンプト)を工夫することで生成物の精度を上げる「プロンプトエンジニアリング」も登場している。例えば、法律相談をするなら判例を示した上で「裁判官として回答してください」と補助的な情報を与えることで未学習の問題にも回答できるというテクニックだ。他にも問題の解き方をプロンプトに含める「Chain of Thought」や、考えられる展開の中から次の一手を探すことで回答を求めさせる「Tree of Thought」などの手法もある。
「Tree of Thoughtは、もはやプロンプトエンジニアリングではなく『プロンプトサイエンス』という研究領域だと思っています。人間が頭の中で『あーでもないこーでもない』と考えるのと似ています。これを研究すると、AIに意識を持たせるような方向に向かっていくと考えています」(鷲尾教授)
今後のAIの展開について鷲尾教授は、マルチモーダル化やオンサイト化、エッジ化などが重要になると指摘。産業分野で活躍するAIを見据えて、センサーの信号データを学習した基盤モデルなども登場するとにらんでいる。
「AIを活用するには情報が必要です。業務や作業現場で生まれるデータを効率的かつ正確に収集して保存、管理、利用する一連の流れを通して、基盤モデルの作成や自社用途への適合が可能になります。それに足るだけのデータをため込まなければならず、それが競争力の源泉になります」(鷲尾教授)
生成AI活用の6ステップ AIの価値を決める「掛け算」とは
生成AIの活用において重要なのが、データ活用の結果をビジネスの戦略に落とし込んで経営に生かす「データマネジメント」だ。「生成AIの価値は、そこに入れ込むデータとの掛け算で決まる。そのためデータマネジメントが大切だ」とデル・テクノロジーズの近田隆司氏は解説する。
データマネジメントに、経営戦略に沿ったデータ活用の方針「ストラテジー」を加えることで生成AIのビジネス活用を成功に導ける。具体的なステップは次の通りだ。
(1)業務の理想像を定義する
経営視点で自社の強みとする業務を定義する。事業部門とIT部門が協力することでバランスがいい取り組みになる
(2)目標を定める
生成AIを導入する対象業務を複数選び、その効果を目標として設定する
(3)現状を分析する
目標の優先度を「ビジネス価値」「実現性」の軸で決めて課題を整理する。ここに、目標に必要なデータを選定するという重要な手順も含まれる
(4)現状を踏まえて理想像を定義する
目標を実現するITシステムの構成を考える。ハードウェアの最適解を探すのも大切だが、データの発生から活用までの流れ「データパイプライン」を考えることが最重要だ
(5)現状と理想のギャップを分析して、活用のロードマップを作成する
現状と理想像の差を埋めるべく、取り組みを数カ月スパンでステップ化する。小さな成功を少しずつ段階的に社内に展開して成果を積み上げるのがポイントだ
(6)施策を実施してから効果を測定する
生成AIの取り組みを経営施策としてロードマップに沿って実施する。(2)で定めた目標に対する達成度合いなどをビジネス視点とIT視点で確認。1回で終わらせず、見つけた課題を次のサイクルで改善しながら、再び(1)から取り組む
「生成AIの取り組みは何がどうなったら『成功』なのかをストラテジーに沿って最初に定義することで活用シーンを導けます。目標の定義が明確なほど、必要なデータやアーキテクチャを考えやすくなります」(近田氏)
データマネジメントを構成する「基盤」「運用設計」「人材育成」
生成AIの活用に必要なデータを集めようにも、ITインフラがサイロ化されていて最新のデータを扱いにくい、異常値や欠損値が多くて使い物にならないなどの課題に直面するケースがある。「古い教科書や間違いがある計算ドリルで勉強しても仕方ないのと同じだ」とデル・テクノロジーズの池田司氏は例える。
生成AI向けにデータを整えるためには、前述のデータマネジメントが欠かせない。データマネジメントは次の3つの柱から成る。
(1)データ基盤
企業活動で生まれるデータを収集する場所。クラウドサービスやデータセンター、エッジ環境やIoT機器などのさまざまな場所で発生する、非構造化データを含むデータを集める仕組みが必要だ
(2)データの運用設計
データ利用者のニーズを満たすプロセスを作る。参照したいデータをすぐにポータルサイトで確認できるようにする、異常値を自動で検知する仕組みを作る、閲覧権限やルールを設定する、などが含まれる
(3)人材育成
データ基盤や運用プロセスを扱える人材を社内で育てる。大事なのがデータを業務に生かすビジネスアナリストだ。「DX人材」とも呼ばれ、業務とデータをひも付ける役割を果たす。業務を理解している人がAIやデータを使うと大きな価値が生まれるので、社内での育成ニーズが高まっている
デル・テクノロジーズは3つの柱を全てサポートできる。特にビジネスアナリストの人材育成は、依頼企業が持つリアルな課題とデータを題材にした実地訓練型の育成プログラムを通して即戦力を育てられると池田氏は胸を張る。
サイロ化の課題を解決する「データ仮想化」は何がすごいのか
データマネジメントの取り組みを阻む壁がITインフラのサイロ化だ。複数のサーバやクラウドサービスにデータが散らばっている場合、従来はデータを1カ所に集めてから分析していたので手間も時間もかかっていた。
その解決策が「データの仮想化」だ。データの格納場所を横断する仮想化レイヤーを設置することで、データ活用時は仮想化レイヤーにアクセスすればよくなる。入り口を統一することで利用者の利便性を向上させつつ、データを集約する操作や追加のハードウェアが不要になる。
データの仮想化を実現するソリューションが米Starburst Dataの「Starburst Enterprise」だ。例えば「ChatGPT」とStarburst Enterpriseを接続した場合、利用者がプロンプトを入力するとChatGPTはStarburst Enterpriseを介して複数カ所のストレージにあるデータを参照して回答文を生成する。
Starburst Enterpriseは多数のクエリを同時に実行できるのでデータ活用をスピードアップさせられる上に、使い勝手がいいデータをまとめて管理する「Starburst Data Product」機能を使って有用なデータを社内に共有することも可能だ。
Starburst Enterpriseとパートナーシップを結んでいるデル・テクノロジーズは、Starburst Enterpriseの性能を引き出せる“デルお墨付き”の事前検証済みシステム構成やミドルウェアの提供、導入支援をしている。
ソフトウェアだけでなく、適切なハードウェアなどをそろえることで生成AIやデータマネジメントの成果を格段に引き上げられる。デル・テクノロジーズは、米NVIDIAのGPUを搭載したAI用途向けの「PowerEdgeサーバ」や「PowerScaleストレージ」を中心としたハードウェアをそろえている。加えて、生成AIのためのソフトウェア「NVIDIA AI Enterprise」や、デル・テクノロジーズのプロフェッショナルサービスによる導入支援を含む完全な検証済みオファーとして「Dell Validated Design for Generative AI」を提供している。
これらはデル・テクノロジーズの本社(東京・大手町)にある「カスタマーソリューションセンター」でデモンストレーションできるので足を運んでほしいと同社の小野良夫氏は訴える。
AIの活用は「生きるか死ぬか」を左右する
デル・テクノロジーズはAIを活用したい企業を本気でサポートしている。そんな企業とAIサービスを提供する企業をマッチングするプログラム「Dell de AI “デル邂逅(であい)”」を展開中で、今回のセミナーもその取り組みの一環だ。
同社の上原宏氏は次のようなメッセージを送る。
「AIは過去の『新しいテクノロジー』とは全く違うインパクトをビジネスに与える可能性があります。企業が生きるか死ぬかという状況です。導入するかどうかを検討する段階ではなく、いつから使うかを考えるフェーズではないでしょうか。しかし『どこから着手すればいいのか』という声を耳にします。そこでDell de AIを活用して、当社にご相談いただければ幸いです」
生成AI×データマネジメントの要点 アーカイブ配信で復習できます
生成AIの活用を成功に導く「データマネジメント」「データの仮想化」のポイントが詰まった本セミナー「『生成AI』活用を加速する”データマネジメント”正攻法」のアーカイブ版をこちらで無料配信しています。取り組みのコツやプロセスの詳細をチェックできるのでお役立てください。
「Dell de AI(でるであい)」からのおすすめ記事一覧
「AIをビジネスで活用する」──そう言い表すのは簡単です。しかし、組織にとって本当に価値のあるアクションへ落とし込むには、考えるべきことがあまりに多すぎます。誰に相談すればいいのか、どうすれば成果を生み出せるのか。「Dell de AI “デル邂逅(であい)”」は、そんな悩みを持つ企業や組織にポジティブな出会いや思いもよらぬうれしい発見──「Serendipity(セレンディピティ)」が生まれることを目指した情報発信ポータルです。
この記事は ITmedia NEWS(https://www.itmedia.co.jp/news/)に2024年3月に掲載されたコンテンツを転載したものです。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2402/22/news007.html