新たなサイロ化が進むマルチクラウドの解決策 急速に進むマルチクラウド化 直面する問題を解決する方法とは

「2025年の崖」をもたらす「技術的負債」を、いかにして解消していくか――。この課題に対応するため、日本でも多くの企業がクラウド化を推進しており、複数のクラウドとオンプレミスを組み合わせた「マルチクラウド」になっているケースが増えてきている。ここで大きな問題になっているのが、特定のクラウドにアプリケーションやデータが固定されることで、新たなサイロ化が進みつつあるという点だ。この問題を乗り越えていくにはどうすればいいのか。企業・組織のマルチクラウド化を支援するデル・テクノロジーズのキーパーソンに話を聞いた。

技術的負債の解消を目指したマルチクラウド化

デル・テクノロジーズ株式会社
上席執行役員
システムズエンジニアリング統括本部長
藤森 綾子氏
大学卒業後、アプリケーション開発業務を経て、2000年にEMCジャパン株式会社(現デル・テクノロジーズ株式会社)にSEとして入社。製造、流通・サービス、金融、通信などほぼ全ての業界のお客様を担当し様々な大型案件に携わる。2008年、豪にてMBAを取得後、SE部長として新規顧客開拓部署の立ち上げを行う。その後、本社・グローバルと連携しながら、アライアンス活動含めた大手通信・金融のSE本部長として従事。2022年2月よりシステムズエンジニアリング統括本部長に着任。社内ではマルチクラウドの全社イニシアティブをリードしている。

―― 経済産業省のDXレポートが指摘した「2025年の崖」まで、2年を切りました。一方、コロナ禍を経験したことで、日本でもITのあり方を見直そうという機運が高まっています。現在の日本企業のITの状況をどのように見ていますか。

藤森この3年間でIT活用は急拡大し、これに対する認識も大きく変化していると感じています。たとえばデータ量に関しては、この3年で急増し、5年前に比べて10倍になったという調査結果もあります。またCIOへの意識調査でも、7割が「クラウド化を強行する必要がある」と回答しています。DXを目的とした限定的なクラウド活用ではなく、基幹システムまでクラウド化することで、技術的負債を解消したいという意識が高まっているのです。

基幹システムの技術的負債を放置しておけば、長期的に運用費・保守費が高騰するだけではなく、ブラックボックス化による障害の危険性もありDX推進の大きな妨げになる、という危機感を持つCIOも増えているようです。このような課題は、既にDXレポートでも指摘されていました。最近ではこれらに加えて、エネルギー価格の高騰という問題にも直面しています。もちろん企業が社会的責任を果たしていくには、サステナビリティにも配慮しなければなりません。

―― クラウドシフトが進んできた背景には、様々な課題があるというわけですね。

藤森しかも単一クラウドの使用にとどまらず、マルチクラウド化も進んでいます。私どもの日本のお客様でも、1つのクラウドだけを使っているケースは少数です。複数のクラウドを使い分けると同時に、必要であれば乗り換えも辞さないという企業が増えています。

―― マルチクラウド戦略は既に一般的なものになっているのですね。

藤森ただし、すべてのワークロードがクラウド化できるわけではありません。機密性の高いデータなどはオンプレミスに残し、データ主権を握っておきたいというニーズも、依然として高いのです。そしてオンプレ自体もNewオンプレミスという言葉が台頭してきており、従来型のシンプルなスタックからクラウドネイティブの要素を取りいれた新しいオンプレミスが必要となるといわれています。また最近ではエッジコンピューティングの利用も広がっており、今後は75%以上のデータがエッジでつくられるようになる、という予測もあります。つまりワークロードは様々な場所に分散し、それらが相互依存するようになるわけです。しかし現在のマルチクラウドは、このような相互依存をシームレスに実現できる状況にはありません。クラウドごとにサイロ化され、運用も複雑化しているからです。これらをシームレスにつなぐ仕組みがないと、今後さらにサイロ化が進み、イノベーションを阻害する結果となるでしょう。

これらは時間の経過とともに大きな問題になっていくため、早い段階で解消しておく必要がある

設計段階からマルチクラウドを意識することが重要

―― そうした問題を解決するには、何が必要なのでしょうか。

藤森まずはサイロを撤廃することが重要になりますが、そのためにはクラウド間やクラウド/オンプレミス間の差異を最小化し、シンプルに接続できる環境をつくり上げる必要があります。そのためにデル・テクノロジーズでは「マルチクラウドへの4つの変革」を進めています。

1つ目は、ハイブリッド構成で復元力のあるITインフラを実現するための「テクノロジーの変革」。2つ目は、クラウドでもオンプレミスでもエッジでも、必要なインフラを瞬時に展開できる「場所の変革」。3つ目は、自律化や外部へのオフロードなどによってITインフラの運用・調達工数を削減する「運用の変革」。そして最後に4つ目が、必要なリソースをテクノロジーの進化に合わせて柔軟に調達できる「調達の変革」です。

1つ目から3つ目までの必要性は理解いただけると思いますが、実は調達サイクルを見直すことも、今後は極めて重要な課題になります。デル・テクノロジーズと日経クロステックが合同で行った調査によれば、ITインフラに求められる要件が5年以内のサイクルで変化する、と回答した割合が65%になっており、40%は3年以内だと回答しているからです。つまり従来のような5~6年サイクルでの調達では、陳腐化したITインフラを使わざるを得なくなってしまうのです。

デル・テクノロジーズでは、テクノロジーの側面だけではなく、運用や調達まで含む変革を推進している

藤森私は技術担当なので、これらの中から「テクノロジーの変革」について説明したいと思います。ここで重要なキーワードになるのが「マルチクラウド・バイ・デザイン」です。これまでのクラウド活用は、事業部門やプロジェクトごとに最適だと思われるクラウドサービスを選択するといった、部分最適型のものでした。このような「計画なきクラウド活用」こそが、サイロ化を生み出す大きな要因になっていたわけです。この問題を解決するには、複数のクラウドやオンプレミス、エッジのどこででも、同じようにワークロードを動かすことができ、データのやり取りもシンプルかつシームレスに行えるITインフラをつくり上げなければなりません。つまりITインフラの設計段階からマルチクラウドを意識する必要があるのです。

―― 複数クラウドとオンプレミスで、共通のアプリケーション基盤をつくり上げるわけですね。

藤森そうです。そのための基盤としては、オンプレミスで一般的に利用されている仮想化技術やコンテナ技術が活用できるでしょう。これに加えて、データの可搬性も求められます。つまりストレージのレベルでも、共通基盤を確立する必要があります。

その具体的なイメージを示したのが図3です。まず各クラウドとオンプレミスで、共通のアプリケーションプラットフォームを使うことで、アプリケーションの可搬性を確保します。さらに、共通のストレージ技術を使うことで、データの可搬性とレプリケーションなどの相互利用も可能にしていきます。これによって、複数のクラウド上のアプリケーションから同じデータを使うことが容易になり、データ保護やサイバーリカバリーをシステム全体で実現することも可能になります。

アプリケーションプラットフォームとストレージプラットフォームを共通化することで、ワークロードとデータの可搬性を可能にする

オンプレミスの先端技術をクラウドでも利用可能に

―― これならサイロを解消できそうですね。

藤森ここでもう1つ必要になるテクノロジー要素があります。それは、複数クラウド上にあるアプリケーションを連携させるための、マルチクラウド対応のオーケストレーターです。つまり、マルチクラウド・バイ・デザインに必要なテクノロジー要素をまとめると、以下のようになります。

これらすべてを実現していくには、幅広いプレイヤーが参加するエコシステムが必要になる

―― このような共通基盤を実現するために、具体的に何を行っているのですか。

藤森デル・テクノロジーズでは2つの方向で、マルチクラウド・バイ・デザインへの取り組みを推進しています。1つはクラウドのバリューをオンプレミスにもたらす「クラウド・トゥ・グランド」であり、Dell APEX(以下、APEX)というブランドのもとで、オンデマンドかつ従量課金制でのオンプレミス向け製品提供を行っています。これは先程の4つの変革のうち、運用の変革と調達の変革に大きな貢献を果たします。また技術的な面では、各パブリッククラウド固有のコンテナ含む様々なクラウドOSに対応したオンプレミスの弊社ハードウェア上により、New オンプレミスとして対応可能な共通のアプリケーションプラットフォームが提供可能です。その一方で、オンプレミスの先端技術をクラウドでも使えるようにする「グランド・トゥ・クラウド」にも取り組んでいます。これは「Project Alpine」と呼ばれていましたが、最近になってAPEXに統合されることになりました。

―― その「グランド・トゥ・クラウド」の取り組みの中で、マルチクラウドの共通基盤をつくりつつあるわけですね。

藤森既に行っている具体的な施策としては、オンプレミス向けのソフトウエアデファインド型ストレージである「Dell PowerFlex」(以下、PowerFlex)を、主要なパブリッククラウド上で利用できるようにする、というものがあります。これを利用したいお客様は、各クラウドサービスのマーケットプレイスでソフトウェアストレージとしてPowerFlexを購入し、すぐに利用を開始できます。現在はAWSのみ可能ですが今後ほかのパブリッククラウド上でも順次提供予定です。

―― オンプレミスのストレージ技術が、そのままクラウドで使えるということでしょうか。

藤森その通りです。PowerFlexは、ミッションクリティカルなアプリケーションに対応した、スケーラブルなストレージです。インスタンス数を増やすことでリニアに性能を高めることができ、独自のマルチAZファイルシステム耐久性によりさらに高い可用性を実現することが可能です。また、すでにクラウド上で利用可能な弊社のバックアップ/DR及びサイバーリカバリーソリューションと組み合わせることでオンプレと同様の運用が可能となるわけです。

また処理内容に応じてクラウドを戦略的に選択し、トータルコストを抑える、といったこともできます。クラウドにデータを置く場合でも、容量や性能の最適化が容易になる、というメリットがあります。たとえばAWS上でPowerFlexを構成する場合には、ストレージ側のモジュールをEC2上で動かして共通ボリュームをつくることになりますが、この共通ボリュームはアプリケーションが稼働する複数のEC2からアクセスでき、シンプロビジョニングも可能なため、容量のムダを排除できるのです。またこのモジュールを動かすEC2のインスタンスを増やせば、性能をリニアに高めることも可能です。このようなことは、AWSで一般的に使われているEC2 Block Storageだけでは実現できません。

また昨今では、データ主権の考え方によりコロケーションやオンプレミスに置かれたストレージとパブリッククラウドのコンピューティングリソースを接続するハイブリッド構成によるストレージアクセスも海外では活用されています。

―― それなら社外に持ち出せないデータでも、クラウドから利用できますね。

藤森クラウドにデータを置いた場合には、そこからほかのクラウドやオンプレミスにデータを移す際に「イグレスコスト」がかかりますが、この問題も解消できます。

―― ストレージ基盤を共通化するだけでも、ITインフラの常識が大きく変わりそうです。

藤森共通化すべきなのはストレージ技術だけではなく、アプリケーション基盤となる仮想化技術やコンテナ技術、それらのオーケストレーションも必要です。さらに、オンプレミスとクラウドの中間に位置するコロケーションも、これからは重要な役割を果たすことになるでしょう。これらすべてを統合したマルチクラウド・バイ・デザインを実現するには、デル・テクノロジーズだけではなく、幅広いプレイヤーが参加するエコシステムが必要です。このようなエコシステムをつくり上げるための取り組みも、数多くのパートナーと共に推進しています。

エネルギー問題への対応やサステナビリティにも貢献

―― 冒頭で、企業が対応すべき課題として、エネルギーコストの高騰やサステナビリティの話も出てきましたが、これらについてはいかがですか。

藤森サステナビリティへの取り組みでまず挙げておきたいのが、エネルギー効率の向上です。デル・テクノロジーズの製品設計では、エネルギー効率が設計指針の中核となっています。既に2013年からの10年間で、製品設計のモダナイズによってエネルギー効率を大幅に高めており、ストレージの重複排除機能などによって、データフットプリントも最大4分の1にまで削減しています。つまり論理的に4TBの容量を1TBの物理容量で賄えることになり、記録デバイスの削減でエネルギー消費も削減できるわけです。このような製品を活用した、データセンターのモダナイズも進めています。最新の機材を使うことで、データセンターのラックスペースは8割以上削減でき、消費電力も7割以上減らせます。

―― APEXで製品を調達すれば、最新モデルへの移行も容易になりそうですね。

藤森そのとおりです。またAPEXを利用すれば、古くなったモデルの再利用をデル・テクノロジーズ自身が行います。つまり製品のリサイクルも、自動的にライフサイクルの中に組み込まれるわけです。これもサステナビリティ実現の重要な要素だといえます。

―― 従業課金制でインフラコストを最適化できるという側面以外にも様々なポイントがあるわけですね。

藤森今回はテクノロジーの話が中心になりましたが、グランド・トゥ・クラウドの取り組みは、当然ながら場所の変革にも貢献するものであり、コロケーションパートナーと連携した「as a Service」の提供も推進しています。またオーケストレーションの統合は、運用の変革ももたらすことになるでしょう。さらにデル・テクノロジーズでは、マルチクラウド・バイ・デザインの実現を支援する、中立的な立場でのコンサルティングも行っています。

デル・テクノロジーズはこれからも、APEXを軸とした取り組みを積極的に推進していく計画です。これによって、多くの企業が直面しているマルチクラウドの課題を解消し、お客様の変革をご支援していきたいと考えています。

日経BP社の許可により、2023年4月26日~ 2023年5月30日掲載 の 日経 xTECH Special を再構成したものです。
https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/NXT/23/delltechnologies0426/

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