“ムダなAI投資”をどう避ける?成功プロセスからGPUサーバ選定まで、IT展示会で見つけた活用方法

ChatGPTの登場から1年半以上が経過した。「取りあえず使ってみよう」という初期フェーズから一歩進んで、現在は多くの企業や業界がビジネスプロセスに組み込む動きを加速させるなど、本格的な導入フェーズに移行している。

この流れを象徴するようなシーンを、2024年4月末に東京で開催された展示会「Japan IT Week」で目にした。DXや業務改革ツールなどが展示されている中で、AI活用に関する出展エリアがひときわにぎわいを見せていたのだ。

特に注目を集めていたのが、デル・テクノロジーズの出展ブースだ。ハードウェアからソフトウェアまで同社の最新AIソリューションを展示しており、ブース内での講演時には身動きが取れないほど人が集まるなど訪問者が高い関心を寄せているのがうかがえた。人気を博していた同社の出展ブースや講演を巡って、企業がAIを取り入れるためのポイントを探った。

デル・テクノロジーズの出展ブースの一部

生成AIの利用方法は?ルールは?山積みの課題を乗り越えるカギ

「お客さまの91%が生成AIを何らかの形で生活に取り入れていて、企業レベルでもお客さまの71%が業務で利用しています。ChatGPTの登場からわずか1年半。これまで、新しいテクノロジーは米国で一般的になってから日本に入ってくるまでに5~6年かかっていましたが、生成AIは1年半でここまできています」――デル・テクノロジーズの調査結果を基に講演するのは、同社の山口泰亜氏(データワークロード・ソリューション本部 シニアシステムエンジニア AI Specialist)だ。

企業は生成AIの活用に取り組む必要性を感じている段階であり、今こそ始めるチャンスだと熱弁を振るう山口氏。しかし同時に、導入には課題があるとも指摘する。

「『生成AIを導入するにはどうしたらいいのか』『どのようなことに使えるのか』と質問されることが多くあります。データ活用の最適解は何か、ガバナンスを利かせるためのルール整備をどうするかなど、考えるべきことが山積みです」

課題解決のカギは、リーダーシップを持つチームが先頭に立って戦略を立てることにあると山口氏はアドバイスする。現場からボトムアップで生成AIに取り組むケースもあるが、生成AIの導入を決めるには上層部がメリットを理解する必要がある。

“ムダなAI投資”を避けるには

最初にリーダーシップチームが生成AIを導入する目標を決めて何を解決したいのかを考えてユースケースを特定することで、初めて生成AIの導入方法を正しく選べるようになる。

生成AIの導入方法は主に4パターンある。一般公開されているAIモデルを使って推論だけ行う手法で事足りるのか、自社データでカスタマイズする「ファインチューニング」や社内情報を基に回答するRAG(検索拡張生成)が必要なのか、イチからAIモデルを作り上げるのか。後半になるほど手間とコストがかかるので、目標とユースケースを適切に設定しないとオーバースペックな選択をしてしまうなどムダな投資になりかねない。

AI投資に際して考えるポイント。上から3段目にAIの導入パターンがある

生成AIの導入パターンによってハードウェアのスペックも変わってくる。しかし適切な選択というのは難しいものだ。そうした悩みを解決すべく、デル・テクノロジーズが構築したのが企業向けAIソリューションの「Dell AI Factory with NVIDIA」(以下、AI Factory)だ。データの準備からAIモデルの学習やチューニング、推論まで、AI活用に必要な段階を幅広くカバー。ハードウェアの用意からAIの実装までデル・テクノロジーズの知見を生かしたプロフェッショナルサービスとして提供する。

「デル・テクノロジーズは、PCやGPUサーバ、ストレージ、ネットワークなどさまざまな製品を手掛けています。AIライフサイクルの全てをサポートできるソリューションとして、エンド・ツー・エンドでAI活用に必要な環境を提供します」

同社は各ユースケースに対して、AI基盤の鉄板構成を提供するサービス「Validated Design for AI」を展開している。検証済みのITシステムを組み合わせたAIインフラ環境を構築可能なので、AI導入時の「何をそろえたらいいか分からない」という悩みを解消してくれそうだ。

Dell AI Factory with NVIDIAについて説明するデル・テクノロジーズの山口泰亜氏

AI用ハードウェアの中核「GPUサーバ」の選び方

AI用のハードウェアとして真っ先に思い浮かぶのが「GPUサーバ」だ。デル・テクノロジーズの代名詞的な製品でもあり、「特に多くの引き合いがある」と山口氏が胸を張るのがハイエンドの「PowerEdge XE9680」だ。AI向けGPUとして名高い米NVIDIAの「NVIDIA H100 Tensor コア GPU」を8枚搭載できる。AIモデルの学習やファインチューニングをするならこのクラスのサーバが必要だと山口氏は言う。

他の選択肢としては水冷式の「PowerEdge XE9640」がある。2Uのラックマウント型GPUサーバで、HPCのようにGPUサーバを何十台と使う場合は水冷式が効果的だ。「PowerEdge XE8640」はGPUを4枚搭載できる空冷モデル。「PowerEdge R760xa」はダブルワイドと呼ばれるGPUを4枚、シングルワイドのGPUを12枚搭載できるので幅広い用途に対応できる。今後はNVIDIAの最先端GPU「NVIDIA H200 Tensor コア GPU」もサポートし、これを搭載したサーバを間もなく出荷する予定だ。

AIにはGPUサーバだけでなくネットワークやストレージの環境も重要だ。「さまざまなAIソリューションのショーケース『AI Experience Zone』を、デル・テクノロジーズの本社(東京・大手町)に開設しています。検証環境を用意しているので、AIを試してみたい方はお気軽にお声掛けください」

生成AIのデータ利用を促進 「データレイクハウス」という仕組み

デル・テクノロジーズの天野献士氏(UDS事業本部 SE部 アドバイザリーシステムエンジニア)

目標に合った投資とハードウェアの選定に加えて、もう一つ重要な要素が「データ」だ。企業が持つデータを使ってAIモデルをチューニングすることで“本当に役立つAI”を作れる。

これまではデータ活用というと、売り上げ情報やデータベースなどの構造化データを使っていた。AIの真価を引き出すには、構造化データに加えて非構造化データであるメールや映像、音声、テキストなども利用することが大切だ。

大量かつ整理されていない非構造化データを扱うポイントは「データレイクハウス」と呼ばれる新しいIT基盤にあるとデル・テクノロジーズの天野献士氏は話す。

データレイクハウスは、構造化データを中心に扱う「データウェアハウス」とあらゆる構造化/非構造化データを保管する「データレイク」の強みを合体したものだ。これまで両者が分離していたので必要なデータの抽出に時間がかかっていた。

「従来はデータサイエンティストが欲しい情報を要求しても、保管場所が散らばっているために抽出に時間がかかりました。サイロ化されたデータ群の問い合わせ先を1つにまとめられるのがデータレイクハウスです。生成AIはデータがあるほど鍛えられるので、生成AIの活用を前進させられる仕組みです」

データレイクハウスの概要

デル・テクノロジーズが提供している「Dell Data Lakehouse」は、米Starburst Dataのデータ仮想化ソリューション「Starburst」を軸にしている。クラウドやオンプレミスにあるデータ格納場所を横断するように仮想化レイヤーを導入することで、データソース自体を統合したり複製したりしなくてもデータを利用できるようになる。どういうことか。

これまではデータサイエンティストがデータ分析や事業計画を策定する際に、クラウドにあるデータや個人のPCにある表計算ソフトのファイルなどを抽出して加工、活用していたので多大な時間がかかっていた。データレイクハウスの仕組みを取り入れると、表向きはStarburstを組み込んだフロントエンドにアクセスするだけで保管場所を意識する必要がなくなる。

「超圧縮伝送技術」でAIの画像活用を推進

非構造化データの代表格が、映像や画像データだ。AIで監視カメラの映像をチェックする、工場にある生産設備の画像を使って異常を検知するなどのニーズがある。しかし高画質な映像はデータサイズが大きいので、伝送時にネットワークを圧迫する上にストレージ容量の消費も激しい。

この課題を解決すれば、画像分析AIをもっと活用できる。AI活用を推進したいデル・テクノロジーズはAIエコシステムの構築を目指す「Dell de AI “デル邂逅(であい)”」プログラムの中で、ティ・エム・エフ・アース(以下、TMF)とパートナーシップを結んだ。同社は肥大化しがちな画像データを圧縮する独自技術「超圧縮伝送技術」を開発。画像の情報量に応じて伝送量を調整することで、遅延を大幅に低減することに成功した。

監視用の画像伝送は、従来技術だと約1M~1.5Mbpsのデータ転送速度が必要とされていた。TMFは超圧縮伝送技術により、これを平均30k~100kbpsまで下げた。およそ10分の1~30分の1だ。

さらに、顔認証などに使うフルHDの動画を伝送するには約4M~8Mbpsが必要とされることもあるが、TMFは平均350k~500kbpsでの伝送に成功。エッジ環境に組み込めるIPカメラタイプやスマートフォンやサーバで動くソフトウェアタイプを用意しており、“AIの目”に相当する画像の取得に生かせる注目の技術だ。

展示ブースでデモンストレーションをしていたが、人間の目には画質の劣化など分からなかった。TMFの斎藤玲氏は現在使っているカメラに合わせたソリューションを提供可能だとした上で、「工場に既にあるカメラ映像のデータを圧縮して伝送する仕組みを大手製造メーカーと検証しています。2024年の夏には稼働予定です」と語る。

TMFの斎藤玲氏(営業部 部長)

GPUサーバから“AI PC”まで デル・テクノロジーズがAI時代のパートナーに

デル・テクノロジーズの出展ブースを巡ると、企業がAIを活用するさまざまな方法が見えてきた。GPUサーバだけでなく、AIモデルを卓上で実行する選択肢があることも同社の強みだ。出展ブースには“AI PC”とも呼ぶべきワークステーションの新製品群が展示されていた。ミニ版タワー型「Dell Precision 3680 タワー」やコンパクト版タワー型「Dell Precision 3280 コンパクト」、モバイルワークステーション「Dell Precision 3490/3590/3591/5490/5690ワークステーション」らはLLMを実行するニーズにも対応している。

「Dell Precision 5690ワークステーション」で画像生成AIを使うイメージ

山口氏の講演にあった通り、生成AIの活用が当たり前になりつつある現在、どのように導入すべきなのか悩んでいる企業も多いだろう。AIの用途や企業規模に合わせてハードウェアからソリューションまで用意しているデル・テクノロジーズは、“生成AI時代”における心強いパートナーになるはずだ。


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この記事は ITmedia NEWS(https://www.itmedia.co.jp/news/)に2024年5月に掲載されたコンテンツを転載したものです。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2405/28/news004.html

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