2023年のトップテクノロジー予測

テクノロジーは、データの時代における新しい期待へどのように応えるのか。デル・テクノロジーズのバイスチェアマン兼co-COO(共同最高執行責任者)、ジェフ クラーク(Jeff Clarke)が語る。

当資料は、2022年12月1日に公開されたブログの抄訳版です。
ブログ原稿 https://www.dell.com/en-us/perspectives/top-tech-predictions-for-2023/

2022 年12月1日 | 所要時間6分
筆者:ジェフ クラーク(Jeff Clarke)/バイスチェアマン兼co-COO(共同最高執行責任者)、デル・テクノロジーズ

2022年は、ジェットコースターのような1年でした。誰も、何が起こるのかを予想することなど、できなかったでしょう。このような状況の中でも一貫しているのは、目の前の障害を克服し、長期的なチャンスを実現する上でのテクノロジーの重要性です。

人類の進歩・発展を促す技術革新は加速しています。複数のクラウド環境とエッジを網羅したハイパーコネクティビティーを背景に、今やデータはあらゆる場所に存在しています。簡単に言うなら、データは、量だけでなく、その価値も日々高まっています。

このような進歩と成長の最前線で、私たちは、新たな期待を抱くようになるでしょう。テクノロジーは、私たちの生活をより快適にし、より大きなビジネスの成功をもたらしてくれると期待されます。教育から医療、行政サービス、さらにその先まで、私たちは、テクノロジーが重要な分野における人類の前進を支えてくれることを期待しています。結果として、課題の解消に欠かせないテクノロジーと、これらに対応するユーザー体験が登場するでしょう。

2023年に向けて、私は、以下4つのテーマがCIOにとっての最優先課題になると考えます。

テクノロジーが労働体験を定義

「Do-Anything-from-Anywhere」の経済環境の中、ワークスタイルの未来は進化しています。ハイブリッドの世界に向けた環境設計を進める中で、従業員体験は、物理的なワークスペースではなく、ますますテクノロジーによって定義されるようになるでしょう。これは、自分、会社、また自分を取り巻くカルチャー(文化)にとって、ベストな環境を考えるオープンな機会です。

新型コロナウイルス パンデミック初期のWork-from-Anywhereの「Version 1」では、「Anywhere」(どこでも)の部分がすべてでした。私たちは、仕事や学校、普段の生活など、どこでも必要な場所で、現代のクライアントのモビリティ(移動性)を活用しました。この次のフェーズが、「Work」(働く)部分の向上です。働く環境がうまく機能するようにするためには、適切なツールと機器、コラボレーションのための適切なワークスペース、適切なカルチャーが必要です。

学生であることは、医師や教師、技師、データ サイエンティストであることとは異なります。今は、誰もが、適切なクライアント機能、フォームファクター、そして最も重要な周辺機器のエコシステムを持つことが、高い生産性を発揮するための完全な環境づくりであることを実感しています。私たちは、先進のディスプレイ テクノロジーに投資することで、リモートでのソフトウェア開発の効果が劇的に高まることを経験しました。また、質の高いオーディオ/ビデオ機能が、リモート学習で劇的な差を生み出すことも知っています。パーソナライズして最適化した環境は、ユーザーにとって本当の意味で差別化への道になり得ます。

結果として、人と人をつなぐだけでなく、人と、それぞれが求めるデータ、アプリケーション、サービスをシームレスにつなぐことへのエンドユーザーの期待が高まります。結局のところ、イノベーションを促進するカルチャーの醸成からお客様へのサービス提供まで、テクノロジーこそが進歩の要なのです。したがって、企業が未来のワークスタイルに対してどのようなアプローチを採るのかに関係なく、現代の労働体験は、テクノロジーによって定義されるのです。

「ウォールド ガーデン」(閉じた環境)がテクノロジー エコシステムに変化

世界のテクノロジー産業は、非常に巨大で日々成長しています。このため、幸いにして幅広いビジネスの機会に応えてくれるイノベーションに事欠くことはありません。その代償として、新しい技術革新が起こるたびに、企業は無秩序で複雑な状況に直面することになります。

例えば、クラウドが登場した初期の頃、ほとんどの企業は、自社のビジネスを強化するために複数のパブリック、プライベート、エッジ、さらには通信クラウドまでを導入する状況にありました。このような「複数クラウド」の段階では、各クラウドのイノベーションへの大量のアクセスが発生しますが、必然的にデータのサイロ化と重複が発生します。サイロ化したクラウドは、「ウォールド ガーデン」、すなわち壁に囲まれて閉ざされた庭のようなものです。

2022年は、真の「マルチクラウド」アーキテクチャーへの業界のシフトが始まりました。これらのアーキテクチャーは、どのようなタイプであれ、ユーザーが利用しているクラウドのコンピュート サービスを利用しますが、同時に重要な機能をマルチクラウド環境全体に「水平展開」することにも重点を置いています。その良い例が、すべてのクラウドがアクセスできる共通サービスとしてのストレージとデータです。現在、マルチクラウドのさまざまなエッジ機能がリリースされており、サイバー レジリエンスやサイバーボールト テクノロジーは、すでに複数のクラウドに水平展開される機能になっています。ゼロトラスト セキュリティーに重点を置くことさえも、マルチクラウドのセキュリティー アーキテクチャーを複数のサイロの集合体ではなく、水平展開の共通サービスとして確立することが主目的です。

もう1つの興味深い分野が、通信ネットワークのデジタル トランスフォーメーション(DX)です。仮想化やソフトウェア定義アーキテクチャー、オープン システム、またOpen RANのようなコンセプトの早期導入によるオープン インターフェイスなどが、これまで以上に広く普及するでしょう。デル・テクノロジーズは、これらの実現に向けて、通信業界で直接的に取り組んでいますが、通信システムのオープン性の高まりとより高速なイノベーションは、すべての企業のDXへ間接的にメリットをもたらします。

2023年は、テクノロジー エコシステム全体を企業のDXのためのプラットフォームとして機能させることに注力したイノベーションの加速が、予想されます。また、柔軟性とイノベーションへのオープンなアクセスを提供するテクノロジーや、無秩序な状態を自動化した作業システムへ変えることができるパートナーへの依存度が高まるでしょう。

これには、相応の理由があります。それは、単一のソリューションやプラットフォーム、プロバイダーでは、テクノロジーがもたらすあらゆる可能性を提供することはできないということです。これは、「クローズド(閉じた)」エコシステムのいわゆる「ウォールド ガーデン」の崩壊を意味します。

AI(人工知能)が変曲点に到達

AI(人工知能)が私たちに何をもたらすのか、その将来性は、長年にわたり語られてきています。2023年は、AIやML(機械学習)の実社会での活用が加速すると予想されます。デル・テクノロジーズには、これらのツールもソフトウェア システムもあり、重要なデータセットも蓄積しています。また、社内のチームが実験から実世界のプロジェクトへと移行できるように、ほぼすべての業種にわたるトレーニングに投資してきました。

デル・テクノロジーズは、このジャーニーを続けてきましたが、現在では、ビジネスを前進させるためにAIに焦点を当てた約1,000のプロジェクト、製品、取り組みを進めています。当社のお客様も同様の道を進んでおり、2023年には、AI/MLの現実的なインパクトをより多く見られるようになるでしょう。

これは、このように高い要件が求められるワークロード用に最適化したインフラストラクチャーが、より多く必要になることも意味します。現在、すでにAIを支える先進のサーバーとストレージが、お客様のもとでこの役割を果たしていますが、2023年には、さらに幅広い範囲のアクセラレーション チップが市場に出回り、パフォーマンスと効率が向上するでしょう。

また、トレーニングと推論の活動を分散して行えるように、クラウド間のデータ共有を簡素化することも必要です。事実、2025年までに、エッジに展開しているAIワークロード用サーバーの88%が、データの推論およびデータの配布だけでなく、これらのデータのAI/ML処理もすでに進行中であると見込まれています

AIの知覚、学習、推論能力が高まるのに伴い、AIの第2の波に乗った企業は、明らかな競争優位性を獲得するとともに、開発者とデータ サイエンティストが、さまざまなアプリケーションと成果物を提供するための自由度を高められるようになるでしょう。企業は、生産性と効率性を高め、電力の要件を軽減し、マルチクラウドおよびエッジ戦略を加速させることができます。業界が成熟し、オープンソースAIが広く普及して、大規模なコミュニティーでも利用できるようになるのに伴い、AIの民主化も進むでしょう。

ますます高まるゼロトラスト アーキテクチャーに向けた勢い

世界経済のDXが進む中で、潜在的なアタック サーフェスの数も、大幅に増えてきています。真の境界線が存在しないため、企業は、データ、サプライチェーン、またビジネスが関わるあらゆる場所で、より大きなリスクにさらされることになります。現在、ほとんどの企業にとって、最大の脅威になっているランサムウェア攻撃は、11秒に1件発生し、1件あたりの被害額は1,300万ドルに上っています。

非常に多くのお客様が、世界中でセキュリティー戦略の変革を進めていますが、その多くが自社環境のセキュリティーを強化するために、ゼロトラスト アーキテクチャーに注目しています。ゼロトラストの3つの主要原則は、すべてに対する偏りがない継続的な認証、堅牢で権威のあるポリシー主導の挙動、深く統合した脅威の管理と、それほど難しいものではありません。

ここで本当の課題になるのは、業界とテクノロジーの現状から、ほとんどのお客様にとってゼロトラストの設計と統合が、複雑になり過ぎている点です。このような負荷を軽減し、プロセスを簡素化することが、デル・テクノロジーズの仕事です。これには、お客様の現状を評価して、サイバーセキュリティー プログラムの成熟を促すとともに、ゼロトラストを実現するための実践的なインサイトを提供することが含まれます。私たちは、ロードマップ、ベスト プラクティス、標準化を継続して進化・発展させていくことで、ゼロトラストの導入をより迅速かつ容易にすることができます。最終的に、高度に分散化してすべてがつながったマルチクラウドの世界において、ゼロトラストは、新たなレベルのデータ セキュリティーと信頼の基盤になるでしょう。

来る年に向けて私が最も重要であると考えるトピックを述べてきましたが、2022年に私たちが学んだことが1つあるとしたら、それは、未来を予測することがいかに難しいかということです。2023年が、未知のことや驚きに満ちた年になることは間違いないでしょう。しかし、テクノロジーの楽観主義者である私は、イノベーションが驚くべき進歩と発展を促進することを確信しています。2023年に何が待ち受けているのか、今から楽しみにしています。